テレビで慶應義塾大学が紹介される時、イメージショットとしてよく使われるのが三田の東館である。国道1号・三田通りに面し、凱旋門のようなアーチ状の大きな開口部のアーケードと、図書館旧館を模した赤煉瓦風の造りが目を引く。国の学術フロンティア事業の補助を受けた研究拠点であるグローバルセキュリティ・リサーチセンター(以下G−SEC)のための施設として2000年春に完成した。
東館建設のきっかけとなったのは三田通りの道路拡幅である。都市計画道路に指定されており、事業決定を受けて拡幅工事が行われることとなった。これにより東門付近は道路境界線から約10メートルの後退が必要となり、東門へ上る坂道は、上り始めの部分が削られ大きな段差が生じることになる。
同じ時期にG−SECの施設建設の計画の検討が始まったことと、この三田通り拡幅に伴う坂道改造の話が合流し、東門一帯の土地をG−SEC施設の建設敷地とするのが最適との判断になり、東館が建設されたのである。その結果、それまでの東門の機能は東館の建物が担うこととなり、三田通りからキャンパスへのアクセスは東館を経由することになった。これに伴い、東門の門柱と斜路に設置されていた旧島原藩邸の時代に馬をつないだといわれる馬留石は、東館を通り抜けてから斜路を南側に上った場所に移設された。
東館は3階部分でキャンパス中庭と橋で連結されており、この階までがアーケード部に充てられている。従って、実質的に使える部屋スペースは4階以上に置かれている。4・5階には研究スペースとセミナールームや事務室等があり、6・7階はマルチスクリーンを備えた吹き抜け構造の研究発表用ラボ「G-Lab(旧名G-SECLab)」が置かれ、最上階8階はホールとなっていて、東館は主に研究用途のスペースとして活用されている。なお、グローバルセキュリティ・リサーチセンターは2016年にグローバルリサーチインスティテュート(KGRI)に改組された。
東館が建つ前、なだらかな坂の先には鉄製の東門があり、坂の途中の右側には、木造の小さな郵便局(慶應義塾前郵便局)があった。この風景をご記憶の方も多いだろう。またもうひと昔の1969(昭和44)年までは、この三田通りに路面電車である都電が走っており(3系統・品川駅?札の辻?虎ノ門?飯田橋)、慶應義塾前の停留所(電停)があった。
東館東西両側のアーケード入口上部のペンマークの下には、「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」を意味するラテン語「HOMO NEC VLLVS CVIQVAMPRAEPOSITVSNEC SVBDITVS CREATVR」が刻まれている。
(編集部)
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