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連載

The Cambrige Gazette


グローバル時代における知的武者修行を目指す若人に贈る
栗原航海(後悔)日誌@Harvard

『ケンブリッジ・ガゼット:Lessons Learned』

第10号(2007年3月)
 

 

■ 目次 ■

 

1. 旧正月明けのケンブリッジより
2. 栗原後悔日誌@Harvard
3. 日欧関係 憧れと無関心を超えて
欧州史: 「知」と「血」が交錯した記録
「不思議な片思い」の関係
憧れと無関心を超えて
4. 編集後記


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1.旧正月明けのケンブリッジより

 中華圏では長期休暇となる旧正月(春節/春※)の期間中、私は過去3年間で初めてケンブリッジから離れて一時帰国をしておりました。そのため、春節を祝う餃子を中国の友人からご馳走になる機会を逃したことを残念に思いつつ、2月24日に梅の花が咲き始めて春が近づいた日本を離れ、未だ摂氏零度近いニューイングランドに到着しました。こうして道路が凍り付いている旧正月明けのケンブリッジより、高い「志」を抱く有能な若人の方々へのメッセージをお送り致します。

2. 栗原後悔日誌@Harvard


 小誌先月号で触れたイスラエル出張中、駐日スウェーデン大使館から電子メールが届きました。内容は、2月中旬に東京で開催される会議(“The New Japan”)に関する問合せでした。この会議は北欧の財界の方々が経済交流促進を目的として来日するのを機会に開かれたもので、野村ホールディングスの氏家純一社長や一橋大学の石倉洋子教授をはじめとする方々と共に講演しました。さて、丁度一年前、The Cambridge Gazette昨年3月号で、本学出身で日本銀行の平野英治理事が本学のビジネス・スクール(HBS)、ロー・スクール(HLS)、そして本校(KSG)が共催したAsian Business Conference (ABC)で講演するため、本学を訪問されたことをご紹介しました。昨年後半から平野氏がトヨタのファイナンシャルサービス株式会社に移られたので、私は自由なお立場から同氏にこの会議で積極的な発言をして頂きたいとお願いしたところ、ご快諾頂きました。こうして、親しい方と一緒に参加することができ、リラックスしつつ会合やステファン・ノレーン駐日大使主催の宴席で会話を楽しみました。が、北欧経済のことをほとんど知らない上に粗忽者の私ですから、会議では私の知らないうちに礼を失したのではと、今になって恥ずかしくなっています。

 スウェーデンと言えばノーベル賞を思い浮かべる方が多いと思います。フロリダ州オーランド郊外のウィンター・パークに在る同州最古の大学ロリンズ・カレッジは、ハーバード大学と比較しますと小規模ですが、1987年にノーベル化学賞を受賞したドナルド・クラム博士が卒業された南部の名門校です。学生の大半は米国南部の優秀で裕福な子女で、留学生はそのほとんどが欧州及びラテン・アメリカ出身です。しかし、昨年、同大学の卒業生が多額の寄付を行い、中国研究センターを設立しました。これを記念して国際会議を開催する旨、我が研究センター(M-RCBG)の元フェローで、スイス出身のマーク・フェチェリン氏が昨年夏、本校に連絡して来た結果、私が参加することになりました。そして約3ヵ月前の昨年12月初旬、中国系企業のグローバル戦略に関する会議(“The Globalization of Chinese Enterprises”)に出席し、講演を行いました。因みにウィンター・パークは、地名から推測される如く、避寒地としてマサチューセッツ州の富裕層が19世紀末に造った街です。また、The Cambridge Gazetteの一昨年7月号で紹介したフェチェリン氏は才能と共に溜息が出るような境遇に恵まれた人で、レマン湖のほとりにプライベート・ビーチを持ち、また家族としての葡萄畑及びワイン・レーベルを所有する裕福な家庭の出身です。また、共に過ごしたM-RCBG時代は記憶に残る出来事ばかりでした―同氏の伯父様は駐スウェーデン大使及び駐韓国大使を経験した外交官であったため、伯父様から聞いた世界の興味深い話を、また欧州の香りをプンプンさせるブロンドのドイツ美人であるハイティの話をたっぷり聞かせてもらったものでした。昨年12月の国際会議では、この優秀な「ボンボン」フェチェリン氏と一緒に時を過ごしましたが、その時、彼は私に向って、「夏、ドイツのハノーファーでハイティと結婚式を挙げるけど、ジュンを招待するから、ドイツ・スイスへの旅行のために日程を空けておいてね」と言いました。そして今、この友人からの夏のプレゼントを心待ちにしつつも、錆びついた私のドイツ語に慌てて油を挿しつつ、日頃の努力不足を後悔している次第です。

 若くて有能な皆様のなかには、欧州を旅行し、更には生活した経験をお持ちの方もいらっしゃると思います。残念ながら私は欧州に住んだ経験が有りません。従って欧州について皆様に適切な助言を差し上げる資格は持っていません。ただ、グローバル時代を迎えて、米国東海岸に居る一人の日本人が抱いた欧州観のなかに皆様にとって少しでも役立つ部分があればと願いつつ記したいと思います。限られた範囲ですが私は仕事や旅行で訪欧経験を持っています。またThe Gazetteで時折触れましたが、本学の欧州問題研究所(CES)やボストン大学の人間科学研究所(IHS)等が開催する欧州関連の会合に頻繁に参加してまいりました。そうした経験から、グローバル化の深化に直面している日本は欧州との関係を改めて考える時期を迎えたと感じております。

 仕事上、フランス語よりもむしろ中国語を使用する機会が多くなった私は、時にはフランスのことを考えていたいと、シャンゼリゼを≪香※※※大道≫、オルセー美術館を≪奥塞博物※≫、そしてワインの「ロマネ・コンティ」を≪※※※※康帝≫として記憶しております。この私の姿を見て本校の友人は微笑みなから、「ジュン、そんな中国語を憶えてどうするの? 使うことは滅多にないんじゃないの?」と私をからかっています。私はそれに対して、「将来、尊敬する中国の友人とシャンゼリゼを散歩し、『ミシュラン』の三ツ星レストランで美味しいお料理とワインを満喫する日が来るかも知れないよ!」と反論しています。実際、2003年に私はベルギーのブリッセルで、当時研修中の中国高級官僚の卵である友人と会食した経験があります。その時はベルギーが誇るレストラン「コム・シェ・ソワ」ではありませんでしたが、友人と2人で中欧間の貿易摩擦や、中国人が抱くオックスフォード大学(牛津大学)とケンブリッジ大学(※※大学)の印象を、シーフードと辛口白ワインを楽しみつつ語り合いました。その時、友人に向かって私は、「君は、将来、中国のエリートとして、欧州の人々と伍して厳しい議論を戦わせることになるでしょう。そうすれば当然のこととして彼等との会食の機会も増えることでしょう」と言いつつ、レストランで必要とされる最小限のフランス語と西洋式のテーブル・マナーについて語りました。こう考えますと、現在は本校の友人にからかわれていますが、中国の台頭とグローバル化の進展で、私の努力は将来必ず報われると信じております。

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著者プロフィール:栗原潤 (くりはら・じゅん)
ハーバード大学ケネディスクール[行政大学院]シニア・フェロー[上席研究員]
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