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The Cambrige Gazette


グローバル時代における知的武者修行を目指す若人に贈る
栗原航海(後悔)日誌@Harvard

『ケンブリッジ・ガゼット:Lessons Learned』

第8号(2007年1月)
 

 

■ 目次 ■

 

1. 謹賀新年
2. 栗原後悔日誌@Harvard
3. アジア、多様性と統一性との狭間で
多様性に満ちたアジア
「多様なアジア」における統一性とは?
知識社会におけるアジアの中の日本
4. 編集後記


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1. 謹賀新年

 新年明けましておめでとうございます。今年も、若人の皆様と共に、「グローバル時代における知的武者修行」に関連した「基礎知識」と「心構え」について考えてみたいと思います。年末、出張先のイスラエルから成田空港に戻り、私は4年ぶりに日本でお正月を過ごしました。「栗原後悔日誌@Harvard」の新年号はこうして日本から発信致します。新年を迎えて、私は日本で美味しい日本酒を頂戴していますが、ボストンでは、ワイン、紹興酒、また地ビールなど様々な種類のお酒を頂いております。我々の仲間にはお酒が大好きな人が多く、彼等とグラス片手に行う知的対話はケンブリッジ生活の楽しみの一つです。

 新年号は最初に、3ヵ月前の10月5日、2つの会合を「はしご」した話をご紹介します。4時半から我が研究センター(M-RCBG)で、或る専門誌の創刊を祝う会合がありました。本校の環境問題専門家であるロバード・スティヴンス教授等、ワインを愛する経済学者がJournal of Wine Economics (JWE)を考案し、またノーベル経済学賞受賞者のダニエル・マクファデン教授も寄稿された創刊号が翌週の『エコノミスト』誌(10月14日号)でも触れられることを祝って、創刊号を片手に12本の赤ワインのティスティングを、ジョン・ラギー所長等と楽しみました。その時、私は「ティスティング」というより、はしたなくも「鯨飲」になってしまい、修養を積む必要性を改めて痛感し、猛省しておりました。ところが、その反省から時を置かずして、「お調子者」の私は、6時過ぎから、親愛なる中国人フェローが重陽の節句を機にもてなしてくれた会合に出席して、翌朝には後悔してもしきれない程の追加的「鯨飲」を致しました。

2. 栗原後悔日誌@Harvard


 ワイン愛好家ならば、1976年5月24日にパリで行われた歴史的な米仏間のブラインド・ティスティングをご存知の方も多いと思います。ネット時代が到来したお蔭で、当時の『タイム』誌や『ニューヨーク・タイムズ』紙の記事は簡単にウェブ上で読めます。それらを読むと、ワインについては決して譲る態度を採らない誇り高きフランス人を、カリフォルニア・ワインで負かした時の米国人の気分が推測できるような気がします。このように、米国東海岸に住む私は外部者ながら、大西洋を挟むワインに関する熱い競争と論争に臆面も無く参加し、同時に環太平洋地域のワインについても、米国産に加えて豪州産、チリ産を味わい、グローバリゼーションの恩恵に与っている次第です。さて西太平洋に位置する日本が、アジア・太平洋諸国との関係を真剣に考えることが地政学上必須となることは誰も否定しないと思います。しかしながら、アジア・太平洋地域と申しましても、大変広い地域です。こうして広大なアジア、そして太平洋地域を我々はどう捉え、どう付き合ってゆくべきなのか。これが今年最初の「栗原後悔日誌@Harvard」です。いつもの通り、結論を先取りして述べます。すなわち、アジア及び太平洋の諸国を概観すれば、文化及び価値観や経済的な発展段階に関し、諸国間で多様性を呈していることは誰も否定しまい。諸国間での多様性自体は優れた点も数多くあり、問題ではない。が、地域全体の統一性、均質性という視点から考えれば、これまた多くの課題を抱えていることも事実である。我々はこの地域の異質性と類似性とを、直接的・継続的・多層的で双方向の知的対話を行いつつ正確に捉える必要があり、先入観や情緒的な態度で臨むことは大変危険である。こうした正確なアジア・太平洋地域の知識を基として、我々日本は世界的覇権国かつ極超大国である米国と共にこの地域の平和と繁栄を如何なる形で推進するかを考え、またアジア・太平洋諸国とどう付き合っていくのかを真剣に考える必要がある。そして日本が抱く世界観とその達成方法について、双方向の知的会話が可能な日本人が、クリティカル・マスに達した一群を形成し、「知的サムライ集団」となって、アジアを含む世界に発信していく必要がある。以上が新年号の話であります。

 

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著者プロフィール:栗原潤 (くりはら・じゅん)
ハーバード大学ケネディスクール[行政大学院]シニア・フェロー[上席研究員]
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