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連載

The Cambrige Gazette


グローバル時代における知的武者修行を目指す若人に贈る
栗原航海(後悔)日誌@Harvard

『ケンブリッジ・ガゼット:Lessons Learned』

第4号(2006年9月)
 
 

1.新学期開始直前のハーバードより
2. 栗原航海日誌@ Harvard
3.日韓関係―『交隣須知』再考
最も近い国を知らない一日本人
先人の努力
我々の責任
4. 編集後記


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1. 新学期開始直前のハーバードより

 米国は通常9月が新学期です。なかには既に授業を開始したクラス・学校もあります。さて皆様は充実した夏休みを過ごされたと思います。スポーツや旅行等で気分転換をされた方も、また読書で教養を高められた方もいらっしゃることでしょう。私は昨年の夏、「ゲヴォシェイク(“GoeVoShake”)」と銘打ち読書三昧、そしてフロリダ州とメイン州に旅行して熱い米国と涼しい米国を経験しました。The Gazetteの昨年9月号にも書きましたが、「ゲヴォシェイク」とは、ゲーテの「ゲ」、ヴォルテールの「ヴォ」、シェイクスピアの「シェイク」から採った私の造語です。戦前の書生が、デカルト、カント、ショーペンハウエルの著書を親しむことを「デカンショ」と称したのに倣って造りました。今年の夏は、昨年同様“GoeVoShake”の著書、更には本学図書館で借りたトーマス・マンの演説録やシンガポールに在る紀伊國屋書店で購入した英中版の『菜根譚』を片手に静かな日々を過ごしていました。マンの講演録「ゲーテと民主主義(“Goethe and Democracy”/“Goethe und die Demokratie”)」を読み、ゲーテと本学との関係を恥かしながら初めて知りました。結果的には高齢故に諦めましたが、ゲーテは米国に移り住むことを望み、また「制約の無い発展を育む法治国家制度を通じ、全世界の関心を集める素晴らしい国(≪Ein wundervolles Land welches die Augen aller Welt auf sich zieht durch einen feierlichen gesetzlichen Zustand, der ein Wachstum befördert, welchem keine Grenzen gesetzt sind.≫)」と米国を称えました。そして、1819年には、自らの全集をハーバード大学に寄贈しています。こうしてゲーテからも愛されたハーバード大学より、「グローバル時代における知的武者修行」を目指す若い方々を対象とした「栗原後悔日誌@Harvard」第4号をお送りします。

2. 栗原後悔日誌@Harvard


 皆様ご承知の通り、7月12日に勃発したイスラエル軍のレバノン攻撃により、中東地域は「憎しみが憎しみを生む」という「憎悪の悪循環(a“vicious cycle of hatred”)」の様相を示しました。現在、私はイスラエル産業界の招待で12月末に同国を訪問する予定になっております。2年前に私が所属する研究センター(M-RCBG)のフェローであったレバノン美人のサルワ・ハンマミ女史は現在ベイルート大学で金融経済を教えています。隣国とはいえ、イスラエルからの招待なので、「近くまで来たよ」と気軽に連絡して会う訳にはいかないと元々思っていました。が、7月以降の一層緊迫した事態に接して、「ヒトの和と輪」は、個人と国、いずれのレベルにおいても簡単なようで現実には非常に難しいと実感しています。こうしたなか、7月31日、アフガニスタンの治安維持指揮権が米軍から北大西洋条約機構(NATO)軍に移譲されました。同日夜に放映されたテレビのニュース番組に米軍司令官で本学出身のカール・アイケンベリー将軍の姿が映っていました。小誌創刊号でも触れましたが、5月4〜6日、ハーバード大学でアジアの指導的な人々が集い、中長期の展望に関してオフレコで自由闊達に議論しようとする会合(Asia Vision 21(AV21))が開かれました。AV21の際に同将軍からアフガニスタンでの御苦労について伺う機会がありましたが、それから4ヵ月も経っておらず、穏やかな同将軍のお顔を懐かしく感じると同時に「御苦労様でした」と声をかけたくなる気持ちになりました。とはいえ、アフガニスタン動向もタリバンによるテロ活動が衰えないと聞き、中東情勢の複雑さを改めて感じています。

 中東情勢同様、緊張関係が続いているのが東アジア情勢です。私はM-RCBGで朝鮮半島や台湾海峡に関して、中国や台湾、そして韓国の友人と、冷静に語らう機会に恵まれています。そして、互いに納得しかつ合意するのは、また喩えとして適切かどうかは別として、「東アジアをパレスチナのような地域にしてはならない」ということです。しかし、私の感じる限り、ナショナリズムが複雑に絡み合って東アジアにはいつ何時“vicious cycle of hatred”が生まれても不思議でない危険性が存在します。小誌前号でご紹介したM-RCBGでの日中韓香台の「ヒトの和と輪」を通じて得られる情報では、相手国を「非難」する感情的な意見が各国で聞かれるとのことです。私は、感情的に咎めるという「非難」の価値を余り認めません。その理由は単純で「生産的」ではないからです。「非難」は、非難した人は感情的なはけ口を見出し、或る意味で快感を覚えるでしょうが、一方の非難された人は快く思うはずがありません。こうした行為からは私が主張する「ヒトの和と輪」は決して生まれません。一方、「批判」は、「非難」とは異なり、高い「志」をもって行われる限り「生産的」であると考えます。こうした「批判」は、@相手の立場、視点を理解した上で行うこと、A感情的でなく冷静に行うこと、B「ヒトの和と輪」を形成して協力関係を築くという点で建設的であること、この3条件を満たす時、意義有る、或いは「生産的」な行為であると考えます。こう考えた時、私が日本に最も近い国である韓国との間で感情的で「非生産的」な「非難」が横行していることに心を痛めている人間の一人であることを認めざるを得ません。韓国の方々を冷静に「批判」するとしても、私達日本側の感情的な「非難」は何とかならないものかと私は考えます。

 

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著者プロフィール:栗原潤 (くりはら・じゅん)
ハーバード大学ケネディスクール[行政大学院]シニア・フェロー[上席研究員]
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