イアン・ハッキングの出世作、待望の邦訳!
▼科学史家・科学哲学者として高名な著者が、統計的推論(確率論)の考え方がどのように起こり広まったかを歴史的に説きおこした、学界への出世作(Ian Hacking, The Emergence of Probability, Cambridge University Press, 1975; 2nd ed., 2006)の待望の翻訳である。
▼該博で知られるイアン・ハッキングが、確率論史への新たな挑戦として問うた本書は、確率の歴史やその社会的影響に関する研究のブームへの火付け役となった。本書では確率の出現をパスカル等確率論史で知られた幾人かの天才達の功績とするのではなく、フーコーの考古学のスタイルを用い、1660年前後の10年間に、証拠などの関連概念の変化に伴って起こった歴史的必然として、医学などとの関わりの深いその前史から鮮やかに描き出す。
▼確率のもつ二元性、確率が出現して初めて可能となった帰納に対する懐疑、意思決定理論、リスクと確率など、現在まで続く論点の起源を示し、確率とは何か、という本質に迫っていく記述は、推理小説のようなスリルに満ちている。


『綴葉』(京都大学生協書評誌) 2024年6月号(No.428)の特集「オススメの本教えてください」(p.6)にてご紹介いただきました。 本文はこちら

第一章 欠落していた考え サイコロ賭博は最古の娯楽の一つであるが、ルネサンス期までランダムネスについて の数学で知られているものはない。この事実について説得力のある説明は一つもない。
第二章 二元性 確率は、現代考えられているように一六六〇年頃に現れてきた。確率は本質的に二元 論的であり、一方で信念の度合いと、もう一方で長期試行において安定した頻度を生 み出す傾向をもつ道具と関係する。
第三章 臆見 ルネサンス期において、当時「蓋然性(プロバビリティー)」と呼 ……
著者略歴は書籍刊行時のものを表示しています。
【著者】 イアン・ハッキング(Ian HACKING) トロント大学名誉教授。 1936 年カナダ生まれ。専門は科学哲学。ブリティッシュコロンビア大学卒業。ケンブリッジ大学にて博士号取得。ケンブリッジ大学、スタンフォード大学、トロント大学、コレージュ・ド・フランスなどで教鞭をとる。 日本ではこれまでに以下の翻訳が出ている。『知の歴史学』(岩波書店、2012 年)、『何が社会的に構成されるのか』(岩波書店、2006 年)、『偶然を飼いならす──統計学と第二次科学革命』(木鐸社、1999 年)、『記憶を書きかえる──多重人格と心のメカニズム』(早川書房、1998 年)、『言語はなぜ哲学の問題になるのか』(勁草書房、1989 年)、『表現と介入──ボルヘス的幻想と新ベーコン主義』(産業図書、1986 年)。
【訳者】 広田すみれ(ひろた すみれ) 東京都市大学メディア情報学部教授。 専門は社会心理学、リスク心理学、意思決定論。1993 年慶應義塾大学大学院社会学研究科後期博士課程単位取得退学。博士(社会学)。民間シンクタンク研究員、東京女学館大学准教授を経て、現職。 主要著書に、『心理学が描くリスクの世界──行動的意思決定入門(改訂版)』(共編著、慶應義塾大学出版会、2006 年)、『リスクの社会心理学』(共著、有斐閣、2012 年)、『読む統計学 使う統計学(第2 版)』(慶應義塾大学出版会、2013 年)、『感情と思考の科学事典』(共著、朝倉書店、2010 年)、『朝倉実践心理学講座1 意思決定と経済の心理学』(共著、朝倉書店、2009 年)など。
森元良太(もりもと りょうた) 慶應義塾大学ほか非常勤講師。 専門は科学哲学。2007 年慶應義塾大学大学院文学研究科後期博士課程単位取得退学。 主要著書・訳書に、『入門 科学哲学──論文とディスカッション』(共著、慶應義塾大学出版会、2013 年)、『進化論はなぜ哲学の問題になるのか』(共著、勁草書房、2010 年)、『ダーウィンと進化論の哲学』(共著、勁草書房、2011 年)、A. ローゼンバーグ『科学哲学』(共訳、春秋社、2011 年)、E. ソーバー『進化論の射程』(共訳、春秋社、2009 年)など。
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