言語の不可能性を乗り越え、自由の思想を追究した井筒俊彦。
自己と他者、自文化と異文化の「世界観」を架橋するために、「対話の哲学」を築いた軌跡を辿る。
井筒俊彦は英文による最初の著作『言語と呪術』(1956年)で言語思想を彫琢し、それをその後の著述活動では、一貫して「自由」を求める思想として発展していった。井筒は、詩的直観を哲学の言葉で再現し、言語の限界を切り開き、囚われなき自在な心を求める。それを理解する手掛かりとなるのが、『言語と呪術』である(本書第一章)。 『言語と呪術』の執筆以降、井筒は、「世界の経験」をあるがままに言語で表現しようとする思想を、古代の詩歌やクルアーン、東洋の古典思想に見出し、それらが提示する「世界観」を類型化し、対話させることを目指した。この「東洋思想の共時的構造化」の軌跡を、『言語と呪術』『スーフィズムと老荘思想』『意識と本質』等の代表作を読み解くことで辿り、その一貫した追究において、井筒が、「言語とアイデンティティ」「文化の均一化」という同時代の問題に対して、相対主義と本質主義を超克する〈自由なる思考〉を紡いだことを明らかにする。
『図書新聞』 2024年6月8日(第3642号)(4面)に書評が掲載されました。評者は、中山純一氏(東洋大学文学部非常勤講師)です。
『読書アンケート 2023――識者が選んだ、この一年の本』(みすず書房、2024)p.84に掲載されました。選者は、西平直氏(教育人間学・死生学)です。
はじめに
第1章 記憶の彼方の言葉――『言語と呪術』とクルアーンの詩学
第2章 存在の夜の黎明――意味分析論の行方
第3章 生々流転する世界――「存在が花する」のメタ哲学へ向けて
第4章 存在零度の「眺め」――存在と本質の拮抗を超える『意識と本質』
第5章 世界と対話する哲学――自由なる思考を求めて
注 参考文献 あとがき
著者略歴は書籍刊行時のものを表示しています。
小野純一(おの・じゅんいち) 自治医科大学医学部総合教育部門哲学研究室准教授。専門は哲学・思想史。 東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。博士(文学)(東京大学)。代表的な著作に「根源現象から意味場へ」(澤井義次・鎌田繁編著『井筒俊彦の東洋哲学』慶應義塾大学出版会、2018年)など、訳書にジェニファー・M・ソール『言葉はいかに人を欺くか』(慶應義塾大学出版会、2021年)、井筒俊彦『言語と呪術』(安藤礼二監訳、慶應義塾大学出版会、2018年)がある。
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