▼「そんな病気はありません」 痛みや苦しみを患いながらも、医療者によって「疾患」を診断されず、 あるいは診断を受けても、他者から「病い」を認められない。 そんな「病い」を生きる人びとの生の困難と希望を描く。
本書では、「痙攣性発声障害」「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群」「線維筋痛症」という3つの「論争中の病」を取り上げ、50名弱の患者への聞き取り調査などから、当事者が抱える深刻な困難や社会的経験の分析を行う。ここでいう「論争中の病」とは、生物医学的エビデンスを欠いているために、病気の実在性に疑義が呈され、患いの正統化をめぐって医療専門家と患者、医療専門家同士、あるいは患者をめぐる周囲の人びとや世論も加わって「論争」が生じている病を指す。
患いに名前を与えられず、名前を与えられるだけでは必ずしも苦しみを緩和されない「論争中の病」を患う人びとが、この社会で直面する困難や医療に対する希望を、私たちはどのように理解することができるのか。当事者へのインタビュー調査から、彼らが抱える困難や病名診断が当事者に与える影響を明らかにする。


みすず 2022年1・2月合併号(no.711)「2021年読書アンケート特集」にて、十川幸司氏(精神分析・精神医学)にご紹介いただきました(p.83)。
図書新聞 第3503号(2021年7月10日)に掲載されました(5面)。評者は本郷正武氏(桃山学院大学社会学部准教授)です。
毎日新聞 2021年5月18日(4面・総合面)「ひと」欄で、著者ならびに本書が紹介されました。 本文はこちら(※有料記事です)

序 章 患い・診断・論争
第1章 「論争中の病」をめぐる問題 1 「病い」から「論争」へ――医療社会学のアポリア 2 医療社会学の分析視角 3 「論争中の病」とは何か 4 「論争中の病」をめぐる問題 5 おわりに
第2章 診断を社会学的に研究するということ 1 診断とは何か 2 医療社会学における診断の布置 3 診断の社会学に向けて
第3章 「病名がないより病名をもらえた方が嬉しい」 ――「痙攣性発声障害」の当事者の困難と診断 1 はじめに ……
著者略歴は書籍刊行時のものを表示しています。
野島 那津子(のじま・なつこ) 大阪大学大学院人間科学研究科助教。京都府立大学、京都府立医科大学非常勤講師。大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(人間科学)。日本学術振興会特別研究員(PD)を経て、2018年より現職。著作に、「人はなぜ病者の物語に感動するのか」(山中浩司・石蔵文信編『シリーズ人間科学5 病む』大阪大学出版会、2020年)、主な論文に、「「探求の語り」再考――病気を「受け入れていない」線維筋痛症患者の語りを通して」『社会学評論』(第69巻第1号、2018年)等がある。
|