「美学」はどのように誕生し、何を目指したのか
バウムガルテンの美学が伝統的修辞学と強固に結びついていたことの内実と意義を問うことによって、未完の主著『美学』のうちに、現代にも通じる芸術論の可能性を見出し再評価する、本邦初の研究書
18世紀半ばのドイツにおいて哲学者A・G・バウムガルテン(1714–62年)は「美学」という新たな学問分野を創始した。 しかし彼の美学理論はこれまで積極的に評価されてこなかった。その理由のひとつは、主著『美学』の内容に古代ギリシャ・ローマの修辞学からの影響が顕著な点にある。 「美学(aesthetica)」は感性の学を意味し、バウムガルテンは美学を自由な技術(芸術)の理論とも規定したが、『美学』の中では感性や音楽・造形芸術への目立った言及がないため、『美学』はたんなる古色蒼然とした修辞学にすぎないと評され、従来の研究では彼の功績は修辞学以外の部分に求められてきた。
なぜバウムガルテンは新しい学としての美学に、古代以来の伝統をもつ修辞学を利用したのか。 主著『美学』で何を為そうとしていたのか。その核心に迫るため、本書は修辞学由来の概念を分析し、バウムガルテンがこれらを言語芸術のみならず造形芸術などへも応用可能なものとして考えていたことを明らかにする。 さらに、修辞学を拡張することで、言語のみならず図像などの記号へも応用するという、現代の記号論にも通じる発想があったと主張する。
『美学』 260号(22年夏号)に書評が掲載されました。評者は桑原俊介氏(上智大学)です。
『日本18世紀学会年報』 第36号(2021年6月発行)(p.149〜p.150)に書評が掲載されました。評者は小田部胤久氏(東京大学)です。
「artscape」 2020/10/15号に書評が掲載されました。評者は星野太氏です。 本文はこちら
はじめに――バウムガルテン、顔の見えない哲学者
序 論 学問としての美学の誕生――修辞学から美学へ 一 バウムガルテン美学と伝統的修辞学の連続性 二 先行研究における修辞学の扱い 三 学芸体系を改編し、修辞学を鋳直す
第一章 バウムガルテン前史――自由学芸から近代哲学へ 一 過渡期にあった哲学部 二 ヴォルフ――〈技術の哲学〉と〈自由学芸の哲学〉の提言 三 ロイシュ――〈アルスの哲学〉という視点 四 ビルフィンガー――論理学に並ぶ〈下位認識能力の学〉の要請 五 ヴ ……
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井奥 陽子(いおく ようこ) 2018年、東京藝術大学美術研究科博士後期課程修了。博士(美術)。 現在、東京藝術大学教育研究助手。二松學舎大学、青山学院女子短期大学、日本女子大学、大阪大学非常勤講師。 おもな業績に「A・G・バウムガルテンとG・F・マイアーにおける固有名とその詩的効果」『美学』70(1) 、2019年、"Rhetorik der Zeichen: A. G. Baumgartens Anwendung rhetorischer Figuren auf die bildende Kunst," Aesthetics 22, 2018など。
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