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The Cambrige Gazette


グローバル時代における知的武者修行を目指す若人に贈る
栗原航海(後悔)日誌@Harvard

『ケンブリッジ・ガゼット:Lessons Learned』

第1号(2006年6月)
 
 

知的戦いの矛:ジョーク(2/3)

 しかし、私は未だ満足していません。生来の楽天主義者とはいえ、物事に対して「悲観的なほど慎重に準備し、楽観的に行動する」 という行動原理を重視する(cautious optimistの)私は、より多くの若い方々に国際的な情報交換の場で真剣勝負をして頂きたいと願ってやみません。その理由は、冒頭に書いた通り、 私達は好むと好まざるとにかかわらずグローバリゼーションという大波に襲われているか らです。人口減少期に入り急速に高齢化する日本は、東アジアにおける隣国中国の台頭と 世界全体を包み込んだ技術進歩によるグローバリゼーションの進展という課題を突きつけ られています。こうしたなか、高い「志」と才能に溢れた若い人々の存在意義と活躍の場 は増大する一方だと考えております。

 5月4〜6日、ハーバード大学でアジアの指導的な人々が集い、中長期の展望に関してオフレコで自由闊達に議論しようとする会合 (Asia Vision 21(AV21)) が開かれました。今回、日本側の参加者は前述の5つの要件を満たした尊敬すべき方々、すなわち本校出身の林芳 正参議院議員をはじめ伊藤隆敏東京大学教授、日本銀行の堀井昭成理事、日本エネルギー経済研究所の十市勉理事、そして本学出身の秋元諭宏米国三菱商事ワシントン事務所長と私の合計6人でした。伊藤先生は幅広い分野に わたって示唆的なお話をされましたし、林先生はジョン・レノンの「イマジン」の歌詞を挿入した酒落たスピーチで多くの参加者の顔 に微笑みを呼び起こしておられました。グローバリゼーションが進展するなかでは、現状 に満足することなく、より多数の日本人がAV21のような国際会議、特に、海外で主催 される会議で活躍されることが期待されています。海外での国際会議における日本の対外発信こそが、日本の情報受信能力を向上させ、動きの激しい国際情勢とそうしたなかでの日本の国益の正確な定義・認識が可能となります(日本が主催する同時通訳付きの国際会議 は様々な点で問題があります。この点については別の機会に論じたいと思います)。AV21 は、現在本学アジア・センター所長を兼任するセイチ教授をはじめ、エズラ・ヴォーゲル教授、ドワイト・パーキンス教授と事務局長役のジョン・ミルズ氏が中心となって企画・運営されています。今回もミルズ氏から、自由闊達な議論ができる日本人として誰が適当かと相談を受けて頭を抱えました。AV21の当日、伊藤先生に向かい、「先生、より多くの才能ある日本人が、このような場で堂々と発言しないといけませんよね」と申し上げたところ、伊藤先生は「ボクもそう思っているのですが…」と仰られ、先生と私とこの点に関しては同意見だと実感し、また喜んだ次第です。こうして今、私は真剣勝負で国際的な情報交換ができる「ヒト」、すなわち、世界に通用する「国際派」養成の必要性を改めて痛切に感じています。同時に、私は最近、ハーバード大学やMIT、更には米国西海岸のカリフォルニア大学バークレー校の知人からも米国人と同じ間合い(呼吸)で情報交換できる日本人を紹介して欲しいと頼まれることが多くなってきました。このように、質の高い対外発信が出来る日本人の希少性を私は日々実感せざるを得ません。余談ですが、AV21の際に大いに笑ったジョークを紹介します。会合では、アジアにおける日中印3ヵ国の動向が議論されました。そうしたなか、ある外国人が 「国際会議で大変難しいことはインド人にスピーチを終らせることと、日本人にスピーチを始めさせることだ」と言いました。私は思わず吹き出すと共に、日本の対外発信の重要性を改めて痛感させられました。

 知的戦いの矛であるジョークに関して、私が彼我の違いを感じた一連の外交関係史を簡単に紹介させて頂きたいと思います。1930年、ソ連の指導者スターリンはマクシム・トリヴィノフを外相に任命しました。同外相は当時のソ連が課題としていた@対米国交同復を1933年に、またA国際連盟加盟を1934年に実現した偉大な外交官です。1933年、就任直後のルーズヴェルト大統領は、日本でも映画ファンなら知っているマルクス兄弟(ドイツ領アルザス地方からのユダヤ系移民が結成した喜劇グループ)の一人、ハーポ・マルクスを親善大使としてソ連に派遣します。トリヴィノフ外相はハーポと個人的な友好関係を築き、二人で演芸の舞台に立つまでになりました。 この米ソ両国間の友好関係を背景に、ソ連の国際連盟加盟が翌1934年9月に実現したと理解されています。私は今、トリヴィノフ=マルクス・コンビがどのようなギャグを連発していたのかをハーバード大学の図書館で調べ ようとしていますが、時間的制約から先延ばしになっているのが残念です。


 

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著者プロフィール:栗原潤 (くりはら・じゅん)
ハーバード大学ケネディスクール[行政学大学院]シニア・フェロー[上席研究員]
 

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