万太郎没後60年を前に すべての演劇関係者に贈る
「軽妙」の底に漂う「あはれ」、それは「会話」で醸し出されるのか? 沈黙が複雑な感情を照らし、ト書きが時空間の奥行きをつくる。
戯曲は小説、詩歌、批評と並ぶ文学の主要ジャンルであると同時に、俳優、劇場、観客といった演劇の基本的な構成要素である。戯曲の言葉は〈読まれる〉とともに〈話される〉ことを前提としている点で、常に生きた人間の身体性に迫るベクトルを内包しており、演出、脚色、装置、照明、効果、音楽といった要素が加わることで総合芸術としての解釈を可能にする。しかし、戯曲を研究対象にする場合、私たちは無機質な活字に托された言語表現を読み解く以外にその劇的世界を享受する術をもたない。 本書は、万太郎が自身の創作世界をどのように構築していったのか、小山内薫らと始めた〈古劇研究会〉、小説と戯曲を溶解させたかのようなト書き、草創期のNHKラジオ・ドラマに深く関わったことなど、万太郎の戯曲世界を多面的・分析的に読み解いていくものである。

序 読む戯曲とは何か
第一章 〈古劇研究会〉からの出発 第二章 〈見えざる劇場〉の系譜――木下杢太郎から久保田万太郎へ 第三章 方法としての読む戯曲 第四章 小説/戯曲の溶解――久保田万太郎のト書き 第五章 「大寺学校」論――はなし・かたり・うた 第六章 「ゆく年」論――「宮戸座」あるいはその陰翳 ……
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石川 巧(いしかわ たくみ) 1963(昭和38)年、秋田県生れ。85年、都留文科大学卒業。87年、成蹊大学大学院修士課程修了。93年、立教大学大学院後期課程満期退学。山口大学、九州大学を経て、現在、立教大学文学部教授。主な著書に、『「国語」入試の近現代史』(講談社選書メチエ、2008年)、『「いい文章」ってなんだ? 入試作文・小論文の歴史』(ちくま新書、2010年)、『高度経済成長期の文学』(ひつじ書房、2012年)、『幻の雑誌が語る戦争』(青土社、2018年)、『幻の戦時下文学』(編著、青土社、2019年)、『江戸川乱歩新世紀』(共編、ひつじ書房、2019年)などがある。
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