「死にたい」とつぶやく
座間9人殺害事件と親密圏の社会学
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事件はなぜ起きたのか 「死にたい」とつぶやいた者たちは、本当に死を望んでいたのか。 なぜ、家族ではなく、その外部に救いを求めたのか。 SNSに溢れかえる「死にたい」の声に、私たちはどう向き合うべきか。 『失踪の社会学』で颯爽とデビューした俊英による快著。
本書は座間9人殺害事件を扱うが、事件の内容を詳細に記述したルポルタージュではない。したがって、既存の報道でまったく明らかになっていない情報は本書には含まれていない。また本書は、事件の一部始終を一つの物語としてまとめたノンフィクションでもない。 もちろん、座間9人殺害事件がどのような出来事であったのかを整理はするが、 あくまでも主目的は、事件について社会学的に考えることである。 したがって、何かしらの「真相」を「暴く」ような内容が描かれることは一切ない。
本書が、座間9人殺害事件について描くのは、「死にたい」という言葉が一種のメディアとして機能した事件だという点である。 被害者9人のうち、8人がTwitter上で「死にたい」とつぶやき、それが契機となって犯人と被害者のコミュニケーションが可能になってしまった点、希死念慮を抱えた者たちの救済願望を悪用し、最悪のかたちで示してしまった凄惨な出来事が本事件の特徴として指摘される。
その意味では類似の事件は今後も起こりうるし、SNSに何らかの規制をかけても、防ぎようがない。そこで著者は、さらに深く事件の本質について考える必要性を説く。 「死にたい」とつぶやく者たちはなぜ、家族などの親密圏ではなく、その外部に救いを求めたのか、という点である。 SNSに溢れかえる「死にたい」の声に、私たちはどう向き合うべきか。 そして、「死にたい」とつぶやくものたちと共にいることは、いかにして可能か。
『失踪の社会学』で颯爽とデビューした俊英による快著。
『青少年問題』 第2巻第1号(2024年3月)に「書評」(p.24-25)に掲載されました。評者は河野荘子氏(名古屋大学大学院教授)です。 本文はこちら
『現代の社会病理』(日本社会病理学会) 第38号(2023年8月)「書評」(p.126-128)に書評が掲載されました。評者は、朝田佳尚氏(京都府立大学)です。
『こころの科学』(230号、2023年7月)に書評が掲載されました。評者は、高橋あすみ先生(北星学園大学)です。
序 論 ある二人の対話から
第1章 座間九人殺害事件を考える 1 事件への問い 2 研究の方法と倫理的配慮 3 事件の肖像 4 「私がしたことは殺人です」 5 「死にたい」という言動と親密圏をめぐる省察 6 救済の悪用
第2章 Twitterの「死にたい」を考える 1 「死にたい」の海へ 2 「死にたい」とインターネット 3 この章で行 ……
著者略歴は書籍刊行時のものを表示しています。
中森 弘樹(なかもり ひろき) 立教大学文学部/21世紀社会デザイン研究科准教授 1985年生まれ。2015年、京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(人間・環境学)。 主な著書に『失踪の社会学――親密性と責任をめぐる試論』(慶應義塾大学出版会、2017年)。同書により、日本社会学会第17回奨励賞(著書の部)、および、日本社会病理学会学術奨励賞(出版奨励賞)を受賞。
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