なぜ科学はストーリーを必要としているのか
──ハリウッドに学んだ伝える技術
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科学はストーリーに満ちている。科学研究の手法も、科学を伝えることも、何かを語るためのプロセスだ。にもかかわらず、ストーリーの持つ力と構造は、広く教育されておらず、公に主張されてもいない。科学はいま、数々の重大な問題に直面している。それらの問題は、ストーリーの力と構造を見過ごしていることに端を発するものだ。問題は多岐にわたる。科学の現場の中で偽陽性の研究結果が急増していることに始まり、現場の外で科学への拒絶感が高まっていることに至るまで。助けが求められているが、本来なら支援の手を差し出すべき文系の専門家たちは、自分たちの抱える問題に忙殺されていて、実践的な視点にも欠けている。著者が主張するのは、現実社会における「物語(narrative)」の力を一世紀にわたって学び、応用してきた人々に対して、科学者が目を向け、その助けを求めるべきだということ──つまり、作家たち、監督たち、役者たち、編集者たちなど、ハリウッドにいる熟練の強者たちにである。 物語によって脅かされるものは、何もない。物語は、人間の文化のあらゆる側面に浸透している。科学者たちは、科学が物語のプロセスであること、物語はストーリーであること、したがって、科学にはストーリーが必要であることを認識しなければならない。
NAKAHARA-LAB.net 2020年8月25日に書評が掲載されました。評者は中原淳氏(立教大学経営学部教授)です。 本文はこちら
実験医学 Vol.37 No.11(7月号)2019(p.1833〜p.1835)に、訳者のインタビュー記事が掲載されました。
週刊ダイヤモンド 2019年3月9日号「Book Reviews/オフタイムの楽しみ」(p.107)に書評が掲載されました。評者は、瀬名秀明氏(作家)です。
日本語版序文
・第1部 序論 なぜ科学にストーリーが必要なのか
・第2部 正(テーゼ) 1 科学は、「物語」の世界から逃げられない 2 そして、人文学は科学の助けになるはずだ 3 しかし、こういう面では人文学は役に立たない 4 したがって、ハリウッドが救いの手を差し伸べる
・第3部 反(アンチテーゼ) 5 物語のツール──WSPモデル 6 言葉──ドブジャンスキー・テンプレート 7 文──ABTテンプレート 8 段落──英雄の旅 9 物語 ……
著者略歴は書籍刊行時のものを表示しています。
[著者] ランディ・オルソン(Randy Olson) ハーバード大学で博士号(生物学)を取得後、ニューハンプシャー大学で教授を務め、終身在職権(テニュア)を取得。その後大学を辞職し、南カリフォルニア大学映画芸術学部で映画製作を学ぶ。ハリウッドを拠点に「ドード−の群れ」(トライベッカ映画祭にてプレミア上映)など、数々の映画の脚本執筆・監督を行うほか、米国各地の大学、企業、政府機関などにおいて情報発信・プレゼンテーションのトレーニングプログラムを実施。著書に『こんな科学者になるな』(未邦訳)などがある。 Twitter:@ABTagenda
[訳者] 坪子 理美(つぼこ・さとみ) 1986年栃木県生まれ。東京大学大学院理学系研究科(生物科学専攻)にて博士号を取得。英日翻訳者、生物学者。小型水棲動物の行動研究を行いながら、一般向け科学書の翻訳、科学シンポジウムの企画、理系学生を対象としたライティングセミナーの開催など、「人と科学をつなぐ」活動に取り組む。 訳書に『性と愛の脳科学──新たな愛の物語』(中央公論新社)、『遺伝子の帝国──DNAが人の未来を左右する日』(中央公論新社、林昌宏と共訳)がある。現在、米国カリフォルニア州在住。
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