工学部生のための研究の進めかた
“使いやすさ”の追究と倫理的配慮
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▼人を相手にした研究の難しさとは? 人に関わる工学研究は,従来のものづくり研究の進めかたとは本質的に異なる部分がいくつもある。それら要点や注意点をコンパクトにまとめた本書は,学生にとっても教員にとっても必要で役立つ一冊となるだろう。
近年,「使いやすさ」(ユーザビリティ)の研究や,「製品・サービスと人間の関係性」(ヒューマンインタフェース)の研究が盛んである。工学部にとって新しい研究分野であるためか,研究室内に蓄積された技術に基づいてとりあえず「使いやすさ」や「製品・サービスと人間の関係をよくする技術」を開発してしまい,ニーズ把握が軽視されている研究発表が後を絶たない。試作した場合の評価者のサンプリング方法が不適切な事例や,研究論文や発表資料に調査協力者の顔を載せてしまうような非倫理的場面も目の当たりにする。
これは,自然科学のセンスでこれらの研究が行なわれるため,社会科学的なニーズ調査の方法や試作品の検証および評価に関係する教育に十分手がまわらず,研究倫理教育(人間として行なってはいけない要件の整理と教育)も十分確立されていない背景が影響していると考えられる。
本書は,こうした状況を問題意識として執筆されている。「使いやすさ」の研究の本質に立ち返り,「ニーズの把握」「試作の企画と実行」「試作品の検証と評価」「試作品の改善」という起承転結を倫理的に遂行できる人材を育成するうえでのまったく新しい教科書として本書は書かれている。本来,「使いやすさ」の研究は,機械設計,デザイン,認知心理,さらには制度論や政策論が絡む学際的な分野であり,総合科学的な分野である。これも意識して,文理を問わず読みやすい専門的導入書に仕上げている。


はじめに
1. 工学の研究とは何か 1.1 工学とは何か 1.2 工学の研究が目指すことは何か? 1.2.1 ヨーロッパのErgonomics(エルゴノミクス)の流れ 1.2.2 アメリカのHuman Factors(ヒューマンファクターズ)の流れ 1.2.3 今日の工学と他の分野との融合 1.3 多様な工学分野と社会への貢献 1.4 工学研究の現在と未来
2. 工学研究でわれわれが陥りやすいミスは何か? ――ミスをし ……
著者略歴は書籍刊行時のものを表示しています。
西山敏樹(にしやま・としき) 東京都市大学都市生活学部・大学院環境情報学研究科准教授。 1976年東京生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業,同大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了,同後期博士課程修了。2003年博士(政策・メディア)。2005年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特別研究専任講師,2012年同大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特任准教授を経て,2015年より現職。慶應義塾大学SFC研究所上席所員,日本イノベーション融合学会専務理事,ヒューマンインタフェース学会評議員なども務める。専門は,公共交通・物流システム,ユニバーサルデザイン,社会調査法など。
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