心に平和のとりでを築く
文化の力(ソフト・パワー)は、政治・経済・安全保障に加えて、平和構築を目的とした外交戦略の重要なファクターとなり得るのか――
アチェでは演劇ワークショップが開催され、東ティモールでは伝統織物「タイス」、アフガニスタンでは「イスタリフ焼」の復興活動がおこなわれ、セルビアでは民族混成サッカーチームが活発な活動を繰り広げる。バルカン半島では書物を介した心の傷の相対化を促す活動がはじまり、ユダヤ系の指揮者バレンボイムとパレスチナ系の人文学者サイードは互いの民族融和を目的にウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団を創設した。これらの活動は、各国政府や開発援助機関、NGO、アーティスト、スポーツ選手、現地市民らが重要な担い手となっている。これら実践をつぶさに観察すれば、紛争の解決や平和構築における文化活動の有効性と、それを可能にする<文化>それ自体のメカニズムがみえてくる。
ジョセフ・ナイによって「ソフト・パワー論」が提示されてからおよそ20年。このように平和貢献に文化活動が一定の役割を負っている一方で、そこにどのような限界や課題が生じたか。文化を活用した外交政策、さらには21世紀のグローバル・マネジメントにもたらし得る新たな方向性を検証する。
国際政治 173号(2013年7月)に書評を掲載いただきました。(評者 成蹊大学 川村陶子氏)
演劇と教育 No.649の30〜31頁に書評が掲載されました(中山夏織氏評)。
国連ジャーナル 2012年秋号に書評が掲載されました(星野俊也氏評、53頁)。
はじめに
第1章 文化と紛争、そして平和 1 文化が紛争を誘引するのか 2 紛争統計は何を語るのか 3 文化とは何か 4 アイデンティティとは何か 5 平和とは何か 6 文化と紛争、平和の関係 7 平和構築と文化活動
第2章 平和構築における文化活動の役割 1 対立者間の触媒としての役割 2 紛争の相対化 3 心の平和構築 4 エンパワメント
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著者略歴は書籍刊行時のものを表示しています。
福島 安紀子(ふくしま あきこ) 1951年京都生まれ。 青山学院大学国際交流研究センター研究員。在ブリュッセルEU-Asia Centre 国際アドバイサリー・ボード・メンバー。 米国ジョンズ・ホプキンス大学ポール・ニッツ高等国際問題研究大学院(SAIS)卒。大阪大学より博士号。国際関係論専攻。総合研究開発機構(NIRA)主席研究員、国際交流基金特別研究員を経て2008年より現職。著書に“Japanese Foreign Policy: A Logic of Multilateralism ” (英国マクミラン社、1999年)。『レキシコン:アジア太平洋安全保障対話』(日本経済評論社、2002年)、 『人間の安全保障』 (千倉書房、2010年)、また、『東アジア共同体と日本の進路』(NHKブックス、2005年)、『東アジア共同体白書 2010』(たちばな出版)、Asia's New Multilateralism (Columbia University Press)、Public Diplomacy and Soft Power in East Asia (Palgrave) などにも寄稿している 。
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