いま「幸福」はどこへ行ったのか? かつて絶対的善とみなされた「幸福の探究」は、グロー バリズムに覆われた多文化世界において、その姿勢の根 本的転換を迫られている。慶應義塾大学文学部総合講座 に参集した多才な17名が、幸福に潜む様々な逆説を照射 し、新世紀における「幸福論の探究」を展開する。 どこから読んでも、どこを読んでも、考えさせられ刺激される一冊。
目次 序――逆説の青い鳥 巽 孝之 第I部 幸福への哲学的接近および現代思想・社会哲学的考察――そこにあらわれる逆説 第1章 ああ言えば幸福 岡田光弘 第2章 動物的幸福をめぐる断章 東 浩紀 第3章 新たなars eroticaの発明へ 熊倉敬聡 第II部 心理学的接近――ヒトと動物の幸福の共通の根と逆説を探る
第4章 快感の逆説――比較神経科学から見た快感の諸相 渡辺 茂 第5章 反応増加 ……
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岡田光弘(おかだ みつひろ) 1954年生。東京大学文学部哲学科卒。慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程修了。文学博士。 慶應義塾大学文学部教授。 論理哲学およびその応用を中心に、論理学、哲学、理論情報科学などを専攻。論理的思考の認知過程理論や脳科学的研究も進めている。 Linear Logic and Intuitionistic Logic (2004, La revue internationale de philosophie)など約70編の論文と線形論理特別号全2巻(1999年、2003年、欧州理論情報学会雑誌TCS)、Image and Reasoning (2005年、慶應義塾大学出版会)など8冊の共編著がある。
東 浩紀(あずま ひろき) 1971年生まれ。東京大学総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。 哲学者、批評家。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター教授・主幹研究員。専門は、現代思想、表象文化論、情報社会論。 主要著作に、『存在論的、郵便的 ジャック・デリダについて』(新潮社、1998年)、『郵便的不安たち』(朝日新聞社、1999年)、『動物化するポストモダン オタクから見た日本社会』(講談社現代新書、2001年)、『自由を考える 9.11以降の現代思想』(共著、NHKブックス、2003年)など。
熊倉敬聡(くまくら たかあき) 1959年生。慶應義塾大学経済学部卒業。パリ第7大学博士課程修了(文学研究)。 慶應義塾大学助教授。特定非営利活動法人「芸術家と子どもたち」理事。専門は、現代芸術論、フランス文学。 著書に『美学特殊C』(慶應義塾大学出版会、2003年)、『脱芸術/脱資本主義論』(同、2000年)など。
渡辺 茂(わたなべ しげる) 1948年生まれ。慶應義塾大学大学院社会学研究科修了。文学博士。 慶應義塾大学文学部教授、日本動物心理学会理事長。 主に鳥類を用いた認知的行動の研究を行っている。日本語の著書に、『認知の起源をさぐる』(岩波書店)、『ヒト型脳とトリ型脳』(文藝春秋社)など。
坂上貴之(さかがみ たかゆき) 1953年生まれ。慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。文学博士。 慶應義塾大学文学部教授。 専門領域は実験心理学(学習)・行動分析学。その中でも、選択行動、行動経済学、意思決定に特に関心がある。
安藤寿康(あんどう じゅこう) 1958年生まれ。慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。博士(教育学)。 慶應義塾大学文学部教授。 専門の行動遺伝学は、かつて悪の学問だった優生学でした。いま善良な学問たる教育心理学も専門とする私が、これをやることで何を生み出せるか試されています。
巽 孝之(たつみ たかゆき) 1955年生まれ。コーネル大学大学院修了(Ph.D., 1987)。 慶應義塾大学文学部教授。 19世紀アメリカン・ルネッサンスの時代を中心に、アメリカ文学思想史の可能性を検討している。主著に『ニュー・アメリカニズム』(青土社、1995年)、『アメリカン・ソドム』(研究社、2000年)、『リンカーンの世紀』(青土社、2002年)、『アメリカ文学史』(慶應義塾大学出版会、2003年)ほか多数。
坂本 光(さかもと ひかる) 1961年生まれ。慶應義塾大学大学院文学研究科英米文学専攻博士課程修了。 慶應義塾大学文学部助教授。 19世紀から20世紀の変わりめに書かれた非イングランド系英文学者による作品群を研究。特に後期ゴシック文学、モダニズム期の詩など。
ヴァルター・フォーグル (Walter Vogl) 1945年生まれ。慶應義塾大学商学部助教授。オーストリア出身の作家として小説・随筆執筆およびドイツ語圏現代文学と政治のかかわりに関する文学批評研究を専攻。現在、「著作の政治学」プロジェクトと題し、ヨーロッパ連合絡みの文学表象についてオーストリアとスイスの1990年代以降の文学を比較研究。主要著作として、 Walter Vogl, Viehtrieb in Balterswil (ein Ritual, 1981); Hassler - Frequenzritte eines Strassenkehrers (Prosa, 1983), Studie ueber oeffentliche Bibliotheken in Oesterreich (1987), Unter dem Kimono (Erzaehlung, 1996), Basic Rosei (Ed., Essays, 2000).
井田邦明(いだ くにあき) 1950年生まれ。桐朋学園大学演劇科卒、パリ・ジャック・ルコック国際演劇学校卒。 演出家・演劇教育者。イタリア・ミラノ在住。現在、アソスィアスィオーネ・コルトゥラーレ・クニアキイダ代表、ミラノ・イダクニアキ国際演劇学校校長、ミラノ・パオロ・グラッシー演劇学校教師。 イタリア・ミラノを拠点に活躍中。三島由紀夫作品をイタリアで初演するなど、ヨーロッパ各地で独自の作風で知られる演出作品を発表する一方、演劇教育者としてその門下から優秀な演劇人を多く輩出。近年、日本においても、大学のセミナーや一般人対象のワークショップを通じて、新しい演劇の普及に努める。またイタリアはじめヨーロッパの演劇作品やオペラ作品を演出し好評を博す。
大串尚代(おおぐし ひさよ) 1971年生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(Ph. D)。 慶應義塾大学文学部助手。 著書に、『ハイブリッド・ロマンス』(松柏社、2002年)、共著『物語のゆらめき』(南雲堂、1998年)、『TAMALAコンプリートブック』(平凡社、2002年)など。
小林エリカ(こばやし えりか) 1978年生まれ。1999年、ホンマタカシ責任編集『マンガカメラ』でデビュー。 著書に、『ネバーソープランド』(河出書房新社)、『空爆の日に会いましょう』(マガジンハウス)がある。
宮坂敬造(みやさか けいぞう) 1949年生まれ。東京大学大学院教育心理学科博士課程修了。 慶應義塾大学文学部教授、同アートセンター兼任所員。専門は、象徴人類学・比較文化関係論(ベイトソン研究、儀礼・パフォ−マンス、文化と医療、エスノ芸術がテ−マ)。 主要論文に、「民族誌のアヴァンギァルド」『現代思想』Vol.12-5, Vol. 12-10、「言説と実践のはざまにあらわれる身体をめぐって」『儀礼とパフォーマンス【岩波講座・文化人類学第9巻】』(1997)、「異界の体験と癒しの儀礼」『イマ−ゴ』Vol. 1-7, "Unusual Gestures in Japanese Folkloristic Ritual Trance and Performances," in M. Rector, et al (eds.) Gestures: Meaning and Use. Universidade of Fernando Pessoa, 2003, 「バリの象徴と絵画の世界」『美術手帖』Vol. 38, No. 567 など。
武山康煕(たけやま こうき) 本名、波津博明。1952年生まれ。東京大学教養学部教養学科卒。 ジャーナリスト、東洋大学社会学部非常勤講師。関心分野は、メディア・ジャーナリズム論、国際政治など。 著作に、「怒れるミュージシャンたち?イタリアにおけるロックと状況」(『スパツィオ』誌連載)、「米英メディアは旧ユーゴ紛争をどう伝えたか」(北海道大学スラブ研究センター刊『ナショナリズムから共生の政治文化へ』所収)など。
長谷川清美(はせがわ きよみ) 1965年北海道生まれ。法政大学文学部地理学科卒。 会社役員、編集・著述業。 ジェンダーに関心をもつきっかけになったのが摂食障害の人たちとの出会いであるが、彼らの「生」へのパワーに私自身元気づけられている。ジェンダーというより人間の生命力を、病を通して教えてくれた彼らには心から感謝している。
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