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The Cambrige Gazette


グローバル時代における知的武者修行を目指す若人に贈る
栗原航海(後悔)日誌@Harvard

『ケンブリッジ・ガゼット:Lessons Learned』

第6号(2006年11月)
 
 

日本の国益を考える

  若くて才能溢れる皆様、来年は日中国交正常化35周年を迎えます。戦争と冷戦を経て、日中関係が正常化してからやっと35年が経ちました。これまでの両国の先人達の成果を皆様と共に発展的に拡大する時が到来したと私は考えております。地政学上近接しているために当然のこととして難しい問題を多く抱えているのは皆様ご承知の通りです。しかし、中国は日本最大の貿易相手国であり、中国側にしても同国第3位の貿易相手国が日本です。こうしたことを勘案しますと、@平和と安全、A自由貿易体制下での経済的繁栄、B自由主義と民主主義等の堅持、C日本の学術文化的発展と人材育成、という我が国の国益を追求する時、対中関係の深化が不可欠であることは誰も否定しないでしょう。しかも、現在の米中関係の緊張化と共に、地政学上遠い地域のEU が中国にとって貿易、技術交流等の面で先行し、グローバルな形で日中関係を冷静に考える時代になりました。この意味で狭隘なナショナリズムに侵されることなく国際関係を冷徹にしかも正確に捉えて行動する若い皆様の健全な愛国精神に基づくご活躍こそが、日本にとって最も必要とされているのです。

 小誌7月号で、日米関係における「ヒトの和と輪」をご紹介しました。と同時に日米間の「和と輪」が最も強いが、他の国々との「和と輪」も大切であると申しました。政治経済の高いレベルでは、1984年に中曽根康弘総理と胡耀邦総書記の合意で、日中21 世紀委員会が発足し、2003年からは小林陽太郎富士ゼロックス会長と鄭必堅理事長がリードされている新日中友好21 世紀委員会が活動を行っています。また「中国贔屓」と自認される東亜キャピタルの津上俊哉社長のご活躍を私はウェブ上で楽しく拝見しております。私自身も日中間の「ヒトの和と輪」を本学だけに限定せず、マンスフィールド・センターの顧問としてマンスフィールド財団と共同で、日米中三国間の中堅リーダーによる知的対話にも参画してゆくつもりです。皆様、私は中国がいつまでも、そして中国国民13億人の最後の一人までもが「反日」になることに反対です。逆に、中国に「親日」の「ヒト」をできるだけ多く増やしたいと考えております。そうした努力こそが平和と繁栄という現在及び将来の日本の国益に寄与し、また日本の世界に対する責務の一つでもあると思っております。

 勿論これは私の考えであり、皆が賛成して下さるとは思っていません。或る「反中」の日本の方と或る「嫌日」の中国の方に、以前、次のように言いました―じゃ日中間で、もう一度戦争を始めるのですか? よろしい。ではあなた方だけで始めて下さい。でも、何年戦争をされる予定ですか? 10 年? 20 年? 何年か知りませんが永遠という訳にはいかないでしょう。停戦の時には私の出番です。それまでは私は日中両国の繁栄と共存のための方策を考え、また中国語を真剣に学んでおきます―と申し上げました。また日本の方に向かい、「前回とは異なり、目的・方法・時期と期間を明確にして頂き、戦略的に戦って下さい。ただし、泥沼のヴェトナム戦争に苦しんだ米国を皮肉ったバーナード・モントゴメリー元帥の有名な言葉を忘れないで下さい―米国は戦争の第二のルールに違反した、すなわちアジア大陸に陸軍で進軍するな、を。第一のルールはモスクワに行くな、である。この二つは私が作ったものだ(The U.S. has broken the second rule of war. That is, don’t go fighting with your land army on the mainland of Asia. Rule One is don’t march on Moscow. I developed these two rules myself.)」とも申し上げました。

 

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著者プロフィール:栗原潤 (くりはら・じゅん)
ハーバード大学ケネディスクール[行政大学院]シニア・フェロー[上席研究員]
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