Web Only
ウェブでしか読めない
連載

The Cambrige Gazette


グローバル時代における知的武者修行を目指す若人に贈る
栗原航海(後悔)日誌@Harvard

『ケンブリッジ・ガゼット:Lessons Learned』

第2号(2006年7月)
 
 

3.日米関係―国際関係の礎

 こうして今回のテーマは「日米関係―国際関係の礎」です。これは私達日本にとって国際関係の礎であるという意味で、覇権国米国 にとってもそうだという意味ではありません。 日本の対応次第でこの命題「国際関係の礎」は瞬く間に変ってしまいます。日米関係の重要性は皆様ご存知の通りです。国際関係の大学者、故高坂正堯先生は、『国際摩擦』の中で、日本外交の基本が日米同盟であるとし、「それは平凡に聞こえるかも知れないが、しかしきわめて重要なものである。だいたい、外交に限らず、なにごとにおいても基本というものは平凡なのであり、しかもそれを忘れるとき、大きな失敗をおかすことになってしまう」 と述べておられます。安定した日米関係がもたらす東アジアの平和と繁栄を享受するあまり、それが当然だと思い込んでしまい、私達は時折その有り難さを見失う危険性に遭遇してしおります。そこで、今月の結論を先取り して述べると以下の通りです。日本が複雑な国際情勢のなかで冷静に国益を追求してゆく時、最も重要な対外パートナーは世界の覇権国米国である。従って私達は覇権国米国を良く理解する必要がある。当然のこととして米国には魅力と米国自身が悩む課題を抱えている。私達はそうした米国の持つ魅力と課題をできるだけ正確に理解して冷静に付き合う必要がある。そしてそのためには、直接的・双方向・継続的な知的対話が不可欠である。これが今回の話であります。

 しかし、米国という極超大国(hyperpower) を理解すること自体極めて難しい話であります。2000年の夏、私は米国研究の泰斗、本間長世先生のお話を伺うことが出来ました。本間先生は、「長年米国を研究してきたが、米国は一体どういう国なのか、未だに判らない所が多い」という趣旨のお話をされました。そして先生は、本学出身の偉大な歴史家であるダニエル・ブースティンや、日本人初の米国大学教授で太平洋戦争中はイェール大学において行動の白由を許された朝河貫一にも触れられつつ、米国の持つ複雑性を語られました。 この本間先生のお話に影響を受けて、生来天邪鬼だった私は益々天邪鬼になり、或る方が「米国は○○だから…」とお話になられると、私は必ずと言ってよい程、「米国といっても様々な見方が出来ます。今仰られた米国とは、どなたが、いつ、如何なる価値観と利害関係を背景として語った意見に基づいて判断された米国なのでしょうか?」と、自分でも憎たらしくなる程の質問を堂々とするようになってしまいました。折角の本間先生の素晴らしいお話も、こうして、私のような性格の悪い聴き手だと歪んだ形の解釈と行動を生んでしまうと反省した次第です。

 

  続きを読む

著者プロフィール:栗原潤 (くりはら・じゅん)
ハーバード大学ケネディスクール[行政学大学院]シニア・フェロー[上席研究員]
 

他ジャンル

ジャンルごとに「ウェブでしか読めない」があります。他のジャンルへはこちらからどうぞ
ページトップへ
Copyright © 2004-2005 Keio University Press Inc. All rights reserved.