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連載

The Cambrige Gazette


グローバル時代における知的武者修行を目指す若人に贈る
栗原航海(後悔)日誌@Harvard

『ケンブリッジ・ガゼット:Lessons Learned』

第2号(2006年7月)
 
 

米国が持つ魅力

 確かに捉え難い米国ですが、いつまでも理解できないと言っていては話は進みません。 現実的には、不完全であったとしても、なんらかの手がかりを頼りに自分なりに理解していかざるを得ません。こうして、今回、米国の魅力と米国の課題について私の見解を述べてみます。紙面の制約上、極端に単純化され たご説明により皆様から誤解を招く危険を覚悟しつつ、最初に米国の魅力を挙げてみます。 私が米国の魅力と感じるものを挙げてみると、@覇権国という米国の地位とその背景、A覇権国であるが故に広い世界観を希求する米国の知的姿勢と、覇権国米国を舞台として優秀 な人々が世界中から集まるという米国における「ヒト」の集積、そして、B米国国民が持つ独特の健やかさ、以上3点です。

 @第一の魅力は、時折、明確に好き嫌いが 別れますが、米国が覇権国(hegemon)であるこ とです。米国は自らの「意思」をその「力」 に依って他国に従わせる点で世界の如何なる国よりも圧倒的な「力」を有しています。米国は、相手の「意思」に関わらず、米国の「意思」を強制的に従わせるという「ハード・パ ワー」だけに優れている訳ではありません。 近年、ナイ教授が強調されている点ですが、 米国の「意思」に従わせる際、米国大衆文化 に代表されるような「ソフト・パワー」を行 使して相手を魅了する形で目的を実現する能力も米国は他を圧倒的しております(「ソフ ト・パワー」にご興味がある方は慶應義塾大学出版会のウェブに掲載されているThe Cambridge Gazetteの2006年4月号を参照して下さい)。こうしたハード及びソフトの「力」 とそうした「力の源泉」を米国は多く擁しています。それらは、優れた「ヒト」であり、 市場原理に裏付けられた経済制度であり、更には人権を尊重し、個人の意見を政治的に反映させる点で発達した民主主義的政治制度等であります。こうした「力の源泉」が一体となって米国の魅力を構成しています。

A第二の魅力は、覇権国米国の知的姿勢と知的環境です。米国は自らの国益を追求する目的から、また覇権国故の使命感と責任感から、より広い視野で世界を知ろうとしております。同時に、@で述べた覇権国米国の「力」 と「力の源泉」を学ぶため、或いは自らの考 えを伝え、自らの力を試すために優れた人々が世界中から覇権国米国に集まってくるとい う現象、すなわち「ヒト」の集積があります。 例えば、国際政治経済の専門家はワシントンDCに集まり、国際金融の専門家はニューヨ ークに、ショービジネスの人々はロサンジェ ルス郊外のハリウッドに集まっています。ま た、全米各地のプロフェショナル・スポーツ・ チームに集まる一流のアスリート達、そして 米国東海岸のボストン(ハーバード、MIT)や西海岸のサンフランシスコ(カリフォルニア大学バークレー校、スタンフォード)等に集まる一流の研究者等、様々な分野で才能溢れる「ヒ ト」の米国における「集積」が観察できます。

B第三の魅力に関する話は、誠に恐縮ながら厳密性を欠く議論です。幸いにも、私は米国のほか、多くの西欧諸国の人々、また数は格段と少なくなりますが、アジア・アフリカ、 そして東欧及び中東の人々と接する機会に恵 まれております。従って、私自身、「米国人は・・・」とか、「日本人に比べ、米国人は…」という話をする気にはなれません。何故なら、そ うした一般化は恣意的にならざるを得ず、その種の議論だけに集中することは極めて危険 だと考えております。ただ、若い方々に楽観的に構えて海外に出て頂きたいと願いから、 米国人の長所と巷間指摘されている点に言及させて頂きます。複数の文献と私の限られた個人的な経験に基づいて、覇権国米国を嘗ての覇権国英国と比較しますと、米国人独特の魅力が浮かび上がってきます。すなわち、米国人は「アッケラカン」とした健やかさというか、人間関係にチョッと「脇の甘さ」ともいえる性格をもっております。他方、過ぎし日の覇権国英国におけるエリートを表す表現 として“British phlegm"という言葉があります。すなわち、英国のエリートは「物に動じず感情を交えずに事実を直視する」性格を持っているという意味です。高坂先生のご著書、また若槻禮次郎首相の自伝『古風庵回顧録』を読まれると、皆様も英国エリートが持つ「冷たさ」に触れた箇所に突き当たると思います。 高坂先生は、英国人は「確かに親切だが、それと同時に他人の問題は結局、他人の責任なんだという限界の意識を伴っている」として、この「冷たさ」こそが英国外交の巧みさの背景にあると述べられています。断わっておきますが、私個人は魅力的な英国人を数多く知っていますので、これはあくまでも極めて大雑把な議論です。この点については、皆様ご自身が積極的に体験し、米国、そして世界の各地に信頼すべき友人をひとりでも多く作って正否をご判断して下さい。

 

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著者プロフィール:栗原潤 (くりはら・じゅん)
ハーバード大学ケネディスクール[行政学大学院]シニア・フェロー[上席研究員]
 

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