ゲーテが案内する、豊かでエネルギッシュな日独医学交流の物語。
著者・石原あえか氏による「特別寄稿」を掲載しました。
ゲーテが案内する、豊かでエネルギッシュな日独医学交流の物語『ドクトルたちの奮闘記――ゲーテが導く日独医学交流』(石原 あえか 著)の特設サイトです
 
 
   
『ドクトルたちの奮闘記――ゲーテが導く日独医学交流』(石原 あえか 著)
 

ドクトルたちの奮闘記――ゲーテが導く日独医学交流

    
 
    
石原 あえか 著
    
四六判/上製/280頁
初版年月日:2012/06/30
ISBN:978-4-7664-1950-4
定価:2,520円
  
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ゲーテが案内する、豊かでエネルギッシュな日独医学交流の物語。

▼詩人ゲーテが見出した名医フーフェラントは、緒方洪庵をはじめとする江戸の蘭学医に大きな影響を与えた。その「医戒」は、明治以降も日本の医師たちに継承された。

ベルリンでアジア人初の医学士(MD)を取得した順天堂三代目・佐藤進、近代薬学の父で、日本の女子高等教育にも尽力した長井長義、ベルリン大学医学部初の女子聴講生をもぎとった杏林女傑・高橋瑞子、マールブルク大学で女性として初めてMDを得た宇良田唯。
詩人ゲーテを導きの糸として紡ぐ、日本とドイツの医師たちの温かく豊かな心の交流、そして学問への飽くことなき情熱と使命感に支えられた挑戦の物語。

▼石原あえか先生のサントリー学芸賞受賞後第一作。

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特別寄稿
   
 

『ドクトルたちの奮闘記』の執筆舞台裏
「芝居の前狂言」になぞらえた新刊ご案内



石原 あえか
東京大学大学院総合文化研究科准教授


 前作『科学する詩人 ゲーテ』を上梓したのが2010年春、もう2年前のことになります。「詩人」ではなく、「自然研究者」のゲーテを紹介する試みは、おおむね好意的に受けとめていただけたようで、ゲーテを研究する者として大変嬉しく存じます。素直に続編を考えれば、前作で言及しなかった地質学や気象学、あるいは化学や動物学でのゲーテの関与、また彼の文学作品への影響などを論じることが可能でしたし、おそらく読者も期待されていたことでしょう(機会があれば、今後も本来の意味での『科学する詩人 ゲーテ』続編を書く用意はあります、念のため)。


 もちろん続編ではなく、本書「ゲーテが導く」、『ドクトルたちの奮闘記』の出版に到るまでには、それなりの理由と経緯がありました。以下、ゲーテの学者悲劇『ファウスト』の第二プロローグ「芝居の前狂言 Vorspiel des Theaters」をお手本に(韻文ではなく、散文ですが)、執筆の「舞台裏」を少しだけ披露しながら、本書の魅力をご紹介致します。

 

 2011年の春まで、私はゲーテの長編小説『親和力』を手がかりに、19世紀前半の気象学や測量学関係の資料を調査・分析し、ドイツ語でまとめる作業に追われていました。その間、思いがけない資料を見つけたり、貴重なオリジナルを見せてもらったり、研究者冥利に尽きる経験を得ました。ところがその幸せな瞬間の合間に、どういうわけか頻繁に、何やら不思議な宝探しのお誘いがかかってくるのです。別の表現を使うなら、「出題者はゲーテ?」と首を傾げたくなるようなジグソーパズル、「こっちの課題もやってごらん」と、声なき声がささやくのです。

 

 2009年度にお世話になったイェーナ大学の独文学研究所は、江戸の蘭学医たちに影響を与えた名医フーフェラントの旧居でした。このフーフェラント、ゲーテが彼に自邸サロンでの講義を頼まなければ、無名の開業医として一生を終えたかもしれません(これはドイツの研究者間ではよく知られている話)。ところが帰国してみると、その貴重な重訳である緒方洪庵の『扶氏経験遺訓』も杉田成卿の『医戒』も、初版和綴本を母校・慶應義塾図書館が所蔵していました。これを使わないのは勿体ない! 俄然、研究心が湧きます。また本書で紹介するひとり、日本人女医として最初にドイツに留学した高橋瑞子の下宿探しは、こともあろうにデュッセルドルフ・ゲーテ博物館の展示図録によって、見事正解が得られました。その後、さらに不思議なご縁で彼女の遺骨とも対面し、また彼女の死後出版された私家版歌集も入手できました。いろいろエピソードはあるのですが、要するに日独医学交流史というテーマに向き合い始めたら、次々と課題が出て、勝手に発展していきました。こんな風に仕事が仕事を始めたら、研究者たるもの、絶対に逆らってはいけません。

 

 ヒントを出しながら先を行くゲーテの背中を、いつも視界の片隅に捉えながら、楽しく追いかけて書いたので、内容はサブタイトルの「ゲーテが導く日独医学交流」そのものになりました。彼が見出したフーフェラントを起点に、緒方洪庵、佐藤進、長井長義、高橋瑞子、宇良田唯、田原淳、石原忍など、ドイツと縁の深い医師やドクトルが登場しますが、通常の偉人伝とはだいぶ違っています。彼らの生涯を個々の独立した話として読むのではなく、それぞれの運命の糸がどのように結びつき、どんな稀有な色柄の反物に仕上がっているかをご覧下さい。ドイツ語と日本語の両方の材料をふんだんに使い、よりをかけた丈夫な糸にして、丁寧に織り上げました。きらびやかな反物ではありませんが、しっかりした素材の味わいをお楽しみいただければ幸いです。

 

 『ファウスト』の「芝居の前狂言」では、詩人が後世に残る台本を夢見る一方で、劇場支配人は観客の入りを気にします。「支配人」ならぬ編集部を納得させ、この持ち込み企画が通るまでは、執筆者もかなりの時間と根気を要しました。編集部でなくとも「ゲーテ研究者が、なぜ日独医学交流史を?」と不思議に思われるのは当然でしょう。また個人ではなく、群像を扱うのも珍しい試みかもしれません。学問への飽くことなき情熱と使命感を胸に海を渡った猛者ばかりですが(表紙に描いていただいた主役達、並べてみると壮観です)、どなたも人間味溢れる個性派、しかもユーモラスで愛嬌があるので、きっと退屈させないはず。
どうぞ、ぜひお手にとって、「注意深く、足早に mit bedaechtiger Schnelle」、ゲーテゆかりのイェーナからベルリンへ、また日本からマールブルク、さらに中国・天津へのルートも経めぐって、ふたたびイェーナに戻るまで、ゲーテを先頭に、頼もしいドクトルたちとご一緒に、楽しい歴史の旅にお出かけ下さい。

 

 
     
著者・訳者略歴
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石原 あえか
(Aeka Ishihara)

東京大学大学院総合文化研究科准教授。
慶應義塾大学大学院在学中にドイツ・ケルン大学に留学、同大でDr.phil.を取得。学位論文Makarie und das Weltall(1998)以来、一貫してゲーテと近代自然科学を研究テーマとする。2005年にドイツで刊行したGoethes Buch der Naturにより、DAADグリム兄弟奨励賞、日本学術振興会賞および日本学士院学術奨励賞を受賞。2011年、近代日独三角測量史を扱ったDie Vermessbarkeit der Erdeを上梓。日本語では慶應義塾大学出版会刊行の著書『科学する詩人 ゲーテ』(2010)によりサントリー学芸賞を受賞。また編著に『産む身体を描く ドイツ・イギリスの近代産科医と解剖図』(2012)などがある。慶應義塾大学商学部教授を経て、2012年4月より現職。

 

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■ 石原あえか氏 関連書籍のご案内 ■
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■ ポエジーと科学の交感!

   
科学する詩人 ゲーテ    

科学する詩人 ゲーテ

   

▼18世紀の詩人ゲーテは、ヴァイマル公国の高級官吏であり、同時に熱心な自然研究者であった。膨大な自然科学コレクションを収集・分析し、自然科学分野に関する論文も執筆したゲーテは、一方で、新しく獲得した科学の知識を積極的に彼の文学作品に応用した。ゲーテの文学作品の本当の面白さ、そして味わい深さは、「詩人にして官僚、並びに自然研究者」という職業コンビネーションから生み出されたものだと言える。逆にこのことは、ゲーテが活動した時代の自然科学の知識や背景、また政治状況を把握しないとわからない内容も多々あることを意味する。

▼本書では、ある時は公務ゆえ、またある時は好奇心に目を輝かせて、当時の最先端の科学に積極的に関与しながらも、決して等身大の人間の視点を失うことなく、終生、誠実に自然と対話し続けたゲーテの詩と科学の交感を描く。

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  四六判/上製/310頁 | 初版年月日:2010/04/30
ISBN:978-4-7664-1727-2 |  定価:2,940円
     
     

■ 産科が成立する過程と絵画芸術(解剖図)の関係を、解き明かす。

   

産む身体を描く ――ドイツ・イギリスの近代産科医と解剖図

 

   

産む身体を描く
――ドイツ・イギリスの近代産科医と解剖図

   
石原 あえか 編
   

▼写真もレントゲンもなかった19世紀、新しい医学分野「産科」へ男性医師が参入するためには、解剖図が不可欠だった。

▼ドイツのイェーナ=ヴァイマルのゲーテとその周辺の人物、画家で産婦人科医でもあったドレスデンのカール・グスタフ・カールス、18世紀以来のイギリスで関わったさまざまな人々を通して、産科が成立する過程と絵画芸術(解剖図)の関係を、解き明かす。

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  四六判変型/並製/96頁 | 初版年月日:2012/03/31
ISBN:978-4-7664-1933-7 |  定価:735円
     
     

■ 人造人間ホムンクルス、その誕生の秘密に迫る。

   

ファウストとホムンクルス ――ゲーテと近代の悪魔的速度

 

   

ファウストとホムンクルス
――ゲーテと近代の悪魔的速度

   
マンフレート・オステン 著、石原 あえか 訳
   

▼ゲーテ、不朽の名作『ファウスト』。その第2部に登場する人造人間ホムンクルスは、フラスコの中の人工生命体という「不完全」な形でこの世に産み落とされた。「完全」な人間になることを願って彷徨うホムンクルスの姿に、ゲーテは一体、どのような意味を込めたのか。

▼近代自然科学の発展にともない、神や神学支配からの解放が徐々に進んでいくなかで、ゲーテは自然科学の発展を評価し、自らも貢献したが、一方で、彼は自然の悪用に対して強い危惧を抱いてもいた。本書では、ゲーテ畢生の大作 『ファウスト』 等、後期3作品を解読し、近代の 「悪魔的速度」 や、人間の理性に潜む野蛮さ、暴力性に鋭い眼差しを向けたゲーテの思想の真髄をあきらかにする。

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  四六判/上製/168頁 | 初版年月日:2009/09/15
ISBN:978-4-7664-1669-5 |  定価:2,415円
     
     

■ 音楽が紡ぐ『ファウスト』

   

ファウスト――神話と音楽

 

   

ファウスト――神話と音楽

   
ハンス・ヨアヒム・クロイツァー 著、石原 あえか 訳
   

▼ファウスト神話の原型、その音楽世界に到達するまでの道のりを明らかにするとともに、その発展に本質的に貢献をした音楽劇作品を紹介する。

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  A5判/上製/270頁 | 初版年月日:2007/04/10
ISBN:978-4-7664-1337-3 |  定価:3,360円
     
     

 

 
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