国家百年の計は、 いかにして実現したのか? 世界最大の水力発電所を擁する長江三峡ダム。 孫文による構想から百年、国家の威信をかけた巨大プロジェクトは 紆余曲折を経て、こうして決定された。 政策が決まる構造を解き明かし、 資源開発、災害対策、および権力の関係を描き出す。
最高指導層と「党員技術幹部」の協働による、三峡ダムのような国家プロジェクトを通して直面する課題の解決、危機管理および国家レベルのビジョンの実現(あるいはその可能性)は、共産党支配の強靭性を担保するひとつの重要な要件となったであろう。本書が行った解明は、今日においてもなおウィットフォーゲル(Karl A. Wittfogel)が指摘した大規模な治水事業によって権力の増強がなされたという有効性を雄弁に語っている。三峡ダムもやがて、都江堰や大運河、万里の長城などの偉業と同様に、この二〇世紀の革命政権の時代を象徴し凝集力を持つプロジェクトとして中国の歴史に刻まれることになるであろう。現代中国の発展の方向を考察する際に、本書で指摘した「党員技術幹部」の率いる主管部門の利益集団化がいかなる政治体制の変容をもたらすかは、非常に重要な視点になると考えられる。 本書「終章」より

序 章 第一章 本書の分析視角
第一部 三峡ダム計画の始動と停滞 第二章 三峡ダム計画の登場 第三章 水電部門の成立と三峡ダム計画における立場 第四章 一九五四年長江大洪水と三峡ダム計画 第五章 一九五八年南寧会議と三峡ダム計画 第六章 一九六〇年代三峡ダムの安全保障への懸念による停滞
第二部 三峡ダム計画の再浮上とダムサイトの決定 第七章 三峡ダム代替案としての葛洲壩ダム 第八章 三峡ダム計画の「実戦準備」 第九章 一九 ……
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林秀光(りん しゅうこう) 慶應義塾大学法学部教授 慶應義塾大学大学院法学研究科博士後期課程修了。博士(法学)。 専門は、現代中国政治。 2001年4月〜2003年3月 米国ハーバード大学フェアバンク研究所訪問研究員 2019年4月〜6月 中国復旦大学国際関係与公共事務学院陳樹渠中心訪問研究員 2019年8月〜2020年3月 米国ブラウン大学The Watson Institute for International & Public Affairs 訪問研究員 主な共著に、『現代中国の国家形成――中華民国からの連続と断絶』(慶應義塾大学出版会、2024年)、『現代中国政治外交の原点』(慶應義塾大学出版会、2013年)、『中国の統治能力――政治・経済・外交の相互連関分析』(慶應義塾大学出版会、2006年)、『中国文化大革命再論』(慶應義塾大学出版会、2003年)などがある。
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