制度と資金配分の実態を検証
将来の人口減少下で日本の成長には人材育成としての教育の政策効果を最大化することが欠かせない。限られた資金をどのような制度の下で配分すれば、教育・研究の費用対効果を高められるのか。財政的・経済学的視点から国・地方自治体の責任主体別費用と財源の構造を明らかにし、効率的で公平な教育財政・資金配分制度を提案する、画期的な解説書。
・ わが国の将来を担う「人財」の育成と、科学技術開発をさらに発展させるための研究には、国からの十分な教育予算が必要であることは間違いない。一方で、教育支出の拡大にはそれなりの財源が必要となる。国は財政状況を意識しながら予算配分を設定するのだが、現在のわが国の財政状況は世界でも突出した債務を抱えており、予断を許さない。
・ 教育・研究開発を進化・充実させる方法としては、教育のための資金投入を増やすほかに、教育の質を高める方法もある。それは、教育支出の費用対効果を高めることである。現在の教育支出が真に費用対効果が高いかたちで配分され、使われているのか、費用対効果を高めるためにはまず何ができるのかを検討する必要がある。
・ 本書は、日本の将来に向けて、どの程度の教育支出を国が設定し、その予算をどのように配分していけば効果的な人材育成と教育の質の向上が図れるのかを検討する解説書である。国および地方自治体の主体別支出と財源構造を明らかにした上で、どこに無駄があるのかを洗い出し、よりよい投資支出を考える上での土台を提供する。現在本書のような財政的(経済学的)視点を伴った教育投資分析を試みた書物は少ない。
・ 本書の特徴@――教育社会学、教育行政学とは異なる 教育社会学は、社会の中で教育がどのような役割を果たしているのかを検討する学問。 教育行政学は、主に教育を成り立たせるための条件整備について研究する学問。教育行政制度やインフラ整備への投資、教育機関経営やそこに勤める人材育成の問題など、多岐に亘る。その中の一つとして「教育財政」が含まれる。一方で、実際の政策の背後には、細かな制度が存在し、国から地方への資金移転など、財政構造問題が深く関わる。にもかかわらず、その財政構造に注目したアウトプットはほとんど存在しない。
・ 本書の特徴A――教育の経済学、労働経済学とは異なる 現在の教育経済学の主流は、投資に対する教育成果(費用対効果)を、主に個票データを用いて個人レベルで検討するというもの。このアプローチは労働経済学でも盛んに行われている。だが、本書が目標としているのは、国家単位レベルでの公的な教育支出構造の解明であり、個人の費用対効果を検討することが目的ではない。
・ では、本書の持ち味は? 本書はオーソドックスな財政学の手法をベースに、個人レベルの分析ではなく、国全体を俯瞰して、a)国および地方の財政制度と教育制度の財政構造を基本的に理解し、b)責任主体別(国、地方)に財政構造を把握し、c)それぞれの責任主体の財源はどうなっているのかを明らかにした上で、d)その複雑な財政制度を通じて教育資金の配分がどのように行われているのかを理解する、という特徴を持つ。
・ 本書のオリジナリティー @ 近年の政策目標は、エビデンスや数値指標に基づく分析を重視する傾向に変わりつつある。この手法を取り入れた研究は海外では多いが、わが国では端緒に着いたばかりで、現時点ではまとまった成果の蓄積には至っていない。EBPM(エビデンスに基づいた政策策定)は経済学が得意とするところであるが、現状は上記の通り、個人から見た人的投資としての教育に着目したものが多い。本書は、財政学の視点から、エビデンスおよび綿密なデータ分析を駆使しながらわが国の教育財政構造の実態を把握することを試みる点で、高いオリジナリティーを有する。
A 財政学と経済学を合わせた「公共経済学」アプローチによって、教育財政および教育費用の構造解明に迫る点が新しい。まず教育財政構造と資金配分の実態を明らかにする。それにより、各教育施策の費用およびその配分方法が透明化される。これをもとに、制度の当初の目的が達成できるかたちになっているのかを、費用・財源面から、経済学的に評価し、わが国の教育財政政策の将来に関して望ましい制度設計の展望を提示する。


まえがき
序 章 教育財政の視点 1 財政の視点から現代のわが国の教育制度をみる 2 教育財政と公共経済学アプローチ 3 教育財政学における「公共経済学アプローチ」という新しい視点 ――これまでの研究との補完関係 4 本書の構成
第1章 日本の教育方針と教育支出 1 教育方針を振り返る 2 日本の教育支出と成果 3 国の方針「骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針)」にみる過去10年の教育財政政策
第2章 教育財政の姿 1 直接 ……
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赤井伸郎(あかい・のぶお) 1968年生まれ。大阪大学大学院経済学研究科修了後、大阪大学助手、神戸商科大学(現・兵庫県立大学)助教授を経て、現在大阪大学大学院国際公共政策研究科教授。大阪大学博士(経済学)。『地方交付税の経済学』(共著、有斐閣、2003年)で日経・経済図書文化賞、NIRA大来政策研究賞、租税資料館賞受賞。『行政組織とガバナンスの経済学』(単著、有斐閣、2006年)でエコノミスト賞受賞。このほか『地方財政健全化法とガバナンスの経済学』(共著、有斐閣、2019年)などの著書がある。
宮錦三樹(みやき・みき) 1984年生まれ。大阪大学大学院国際公共政策研究科博士後期課程修了後、大阪大学博士(国際公共政策)取得。立教大学経営学部助教を経て、現在中央大学経済学部准教授。主な業績に「学校統廃合が自治体教育財政に与える影響」『日本経済研究』81号(2023年)、「日本における公的部門・民間部門の教育支出と相互依存関係の検証」(共著、日本財政学会編『財政研究』18巻所収、有斐閣、2022年)、"Public nursery school costs and the effects of the funding reforms in Japan," International Journal of Public Administration, 39、2016 など。
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