仮釈放から自由刑のあり方を考える。
仮釈放の原理や正当化根拠に立ち返り,仮釈放や保護観察の制度を理論的に考察。 科学的検証のない政策に十分な効果は期待できないが,原理原則のない政策は無軌道となる。 将来に亘って妥当性を有する仮釈放制度の理論的支柱を構築する。
本書「はしがき」から 「仮釈放は,自由刑の執行過程で受刑者を仮に釈放し,社会の中で自律的な生活を営ませながら保護観察を行い,改善更生や社会復帰の状況を見極めるという現代の刑事政策にあって極めて重要な役割をもつ。しかも,刑事施設へ入所したほぼ全ての受刑者が手続(生活環境調整)の対象となり,半数以上の受刑者が実際に仮釈放になることから,対象者の多さという点でも重要な施策である。『仮出獄は刑事政策,殊に刑罰学において最高の意義をもち,将来の刑罰学の進歩発展は実に仮出獄制度の組織如何に拠らなければならない』というのは,監獄学・刑事政策学の大家であり,検事長や刑政局長を務めた正木亮博士の残した名言である。 従来,仮釈放については,実務家によって運用上の在り方が議論されることはあっても,理論的側面から制度の在り方を研究したものは極めて少ない。刑法や監獄法全面改正作業の過程でも仮釈放制度に対して検討が行われたが,犯罪者予防更生法の制定によって仮釈放は監獄法改正の主要議題から外れ,刑法改正作業においても,仮釈放期間の折衷主義は導入しないことで早々に決着がつき,その後,改正作業そのものが頓挫している。結局,仮釈放制度は,犯罪者予防更生法による保護観察の導入と更生保護法の制定による手続の改正を除くと,明治以来,基本的な姿を変えていないばかりか,犯罪者の社会復帰や再犯防止を図るうえで不都合な制約や限界が多く残されている。 本書は,仮釈放制度の在り方を理論的に検討したものであるが,仮釈放は,自由刑という刑罰の執行過程で行われ,刑事施設内における矯正処遇の成果が問われる場面であるから,仮釈放の在り方を追究するということは,自由刑や矯正処遇の在り方を追究することでもある。一方,仮釈放後には中間処遇や保護観察が行われることから,仮釈放は,保護観察の期間や内容といった社会内処遇の問題にも直結する。仮釈放が刑事政策学において最高の意味をもつという正木亮博士の言葉は正にそのことを示している。仮釈放を扱う本書は,そういった意味で自由刑と施設内処遇と社会内処遇の研究でもある。」

刑事法ジャーナル 2019年(Vo.59)(p.137〜p.139)に書評が掲載されました。評者は小西暁和氏(早稲田大学法学学術院)です。
犯罪社会学研究 2018年第43号に書評が掲載されました。評者は久保貴氏(東京福祉大学心理学部心理学科教授)です。
刑政 129巻8号(2018年8月)に書評が掲載されました。評者は大橋哲氏(法務省大臣官房審議官)です。

はしがき
第1編 仮釈放の基本理念と法的性質 第1章 仮釈放理論の系譜と再構築 T 仮釈放制度の歴史的展開 U 仮釈放理論再構築の重要性
第2章 刑事政策の目的と仮釈放の本質 T 刑事政策の目的 U 仮釈放の目的 V 仮釈放とリスク管理 W 仮釈放の法的性質
第2編 仮釈放要件論 第1章 仮釈放の法定期間と正当化根拠 T 法定期間再考の必要性 U 法定期間の正当化根拠 ……
著者略歴は書籍刊行時のものを表示しています。
太田 達也(おおた たつや) 1964 年生まれ。慶應義塾大学法学部教授。博士(法学)。 日本被害者学会理事長,日本更生保護学会理事,最高検察庁刑事政策専門委員会参与,法務省矯正局矯正に関する政策研究会委員,法務省法務総合研究所研究評価検討委員会委員,同犯罪白書研究会委員,一般財団法人日本刑事政策研究会理事,更生保護法人日本更生保護協会評議員,公益財団法人アジア刑政財団理事,公益社団法人被害者支援都民センター理事などを務める。 編著書として,『Victims and Criminal Justice: Asian Perspective(被害者と刑事司法―アジアの展望)』(編著,慶應義塾大学法学研究会,2003),『高齢犯罪者の特性と犯罪要因に関する調査』(共著,警察庁警察政策研究センター,2013),『いま死刑制度を考える』(共編著,慶應義塾大学出版会,2014),『刑の一部執行猶予―犯罪者の改善更生と再犯防止』(慶應義塾大学出版会,2014),『リーディングス刑事政策』(共編著,法律文化社,2016)ほか。
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