多言語社会の将来を考える一冊。
ウェブは時々刻々変化する実世界を反映する巨大なマイクロコスモスへと成長した。検索エンジンを通じて、われわれはこの巨大な宇宙を自由に検索できるが、そこから見えるのは、検索ワードという小窓から見た宇宙の断片像に過ぎない。言語天文台は、使用言語の分布や構成、サーバ所在地、リンク構造、グラフ構造といった多面的な切り口からウェブ宇宙を解析し、各言語コミュニティの実像、言語間格差、外部世界とのつながり、サイバースペースの自由度などを立体的に明らかにする。
本書は、言語天文台という、ユニークなデータマイニングの装置、インテリジェンスの装置を開発した筆者と世界の仲間たちの開発物語である。巨大なウェブ宇宙を相手どったデータ収集の苦労、世界の隅っこにおかれた300以上の言語を自動判別する困難、開発の過程で生まれた世界の仲間との意外な出会い、研究プロジェクトに参加した学生たちの試行錯誤や発見などが縦横に語られる。
本書が最後に述べるのは多言語社会の将来像である。サイバースペース上では、エンパワーされた多数の母語が競い合うような多言語社会が実現するのか?それとも多くの母語の死か?
![書評](/img/detailh4-review.gif)
日経サイエンス 2015年3月号「新刊Guide」に掲載されました。
![目次](/img/detailh4-contents.gif)
【第1部 言語天文台とは】
第1章 言語天文台とは 1 世界の言語天文台 2 言語間デジタルデバイド 3 言語天文台の目的 4 言語天文台の発足 5 沖縄憲章からサイバースペース勧告へ 6 国連開発目標 7 天体の宇宙、言語の宇宙
第2章 動機と試行錯誤 1 アジア情報技術標準化フォーラム 2 情報技術標準化の国際組織 3 情報技術のローカライゼーション 4 初期のウェブ言語調査 5 われわれの初調査 ―― サイバー・セン ……
著者略歴は書籍刊行時のものを表示しています。
三上喜貴(みかみ・よしき) 長岡技術科学大学教授 1952年生まれ。1975年東京大学工学部計数工学科卒業。通商産業省勤務を経て1997年より長岡技術科学大学教授。慶應義塾大学大学院より博士(政策・メディア)。専門は文字情報学、情報政策、技術経営。著書に「文字符号の歴史:アジア編」(共立出版、2002年)、「日本の技術革新」(放送大学教育振興会、2008年)、『インドの科学者』(岩波書店、2009年)など。文字符号国際標準化専門委員会(ISO/IEC/JTC1 SC2)議長、文字情報技術促進協議会会長。
中平勝子(なかひら・かつこ) 長岡技術科学大学経営情報系助教 1994年奈良教育大学大学院教育学専攻修士課程修了。2000年大阪大学大学院理学研究科博士課程単位取得退学。修士(教育学)。早稲田大学教育学部助手、長岡技術科学大学 e ラーニング研究実践センタ助手を経て2007年より長岡技術科学大学経営情報系助教、現在に至る。専門は教育工学、情報学基礎。ICTによる教育をグローバルに調査するという視点で言語天文台プロジェクトに参加。
児玉茂昭(こだま・しげあき) 国立文化財機構アジア太平洋無形文化遺産研究センターアソシエイトフェロー 1971年生まれ。1997年京都大学大学院文学研究科言語学専攻修士課程修了。2000年同大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。博士(文学)。東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所非常勤研究員,日本学術振興会特別研究員(PD),長岡技術科学大学経営情報系産学官連携研究員を経て2011年より国立文化財機構アジア太平洋無形文化遺産研究センターアソシエイトフェロー,現在に至る。
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