▼前著、弊社刊『ケインズの思想』で「不確実性」をキーワードにマーシャルからケインズへの思想的継承と発展の過程を読み解いた著者が、本書ではさらにケインズからヒックスへの継承、ケインズ経済学と一般均衡論的枠組みとの総合、オーストリア学派からの吸収と彼らとの論争などを丹念にたどり、「不確実性」と「時間」をキーワードにヒックス後期の「歴史理論」へと結実する知的道程を明らかにする。
▼ヒックスの、挑戦 ケインズの「不確実性」概念を受け継いで経済とりわけ資本の問題を「時間の中で」とらえなおし、やがて『経済史の理論』へと到達するヒックス。その思索過程を精緻に読み込み、彼の歴史理論を現代史の理論へと磨き上げた、ヒックス研究の決定版。
▼[Economics in Time]の探究 新古典派経済学とケインズ経済学とを総合してIS-LM分析を生み出し、ノーベル賞を受賞した輝かしきヒックス。しかし、本書が光を当てるのは、初期の自説に不満を抱き、時間と資本の関係から歴史と経済の関係へと思索を深めた彼のもう1つの顔、「後期ヒックス」である。 ケインズの「不確実性」概念を受け継いだヒックスは、オーストリア学派の動学的思考法を受容し、資本を通時的因果律の中で捉える必要に気づく。そして彼の研究は、歴史理論の構築へと向かう。 本書は、ヒックス生涯の研究を「因果律」の糸で貫き、本来なら彼自身によって完成されるべきもう1つの著書へと思索を巡らせ、そして彼本来の経済理論を現代に甦らせようという、冒険的な企てなのである。

日本経済新聞 2011年7月17日「読書欄」(21面)にて紹介されました。

序
第1章 経済学的方法論の転換――時間と不確実性の論理を求めて はじめに 第1節 後期ヒックスの方法論の転換――因果律と時間 第2節 古典派経済学における静学的な因果律と均衡の概念 第3節 同時的因果律とケインズ派のIS-LMモデル 第4節 通時的な因果関係――動学的な論理 第5節 ヒックスによるケインズ確率論の発展
第2章 IS-LM理論から貨幣・資本理論へ はじめに 第1節 IS-LMモデルから貨幣・資本理論へ 第2節 貨幣・資本理論の出発点 ……
著者略歴は書籍刊行時のものを表示しています。
小畑二郎(おばた じろう) 立正大学経済学部教授、筑波大学名誉教授 1947年生まれ。1970年慶應義塾大学経済学部卒業後,77年東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。財団法人日本証券経済研究所研究員,筑波大学社会科学系講師を経て,1995年筑波大学教授,2010年より現職。1993〜94年米国ジョージメイソン大学公共選択研究センター客員研究員,2003年カナダ,アカディア大学客員教授。 主な著書に,『ケインズの思想――不確実性の倫理と貨幣・資本政策』(慶應義塾大学出版会,2007年),『アメリカの金融市場と投資銀行業』(東洋経済新報社,1988年),訳書に,J. ブキャナン著『倫理の経済学』(有斐閣,1997年)等がある。
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