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立ち読み
 
高齢化社会と日本人の生き方  立ち読み

『高齢化社会と日本人の生き方
岐路に立つ現代中年のライフストーリー』
  

第五章 底流としての日常を生きる
――馬場さんのエイジング より抜粋

 

小倉 康嗣 著
 
 

 一 出会い――初回調査

 「最高に幸せです」

 馬場さん(女性)から届けられた読書カードには、こう書いてあった。

 私も十二月で五十歳になりますが、農協(JA)で二十年働き、三年前からフリーしてます。夫の給料と私のバイト料で家計eは丁度! 蓄え備えも何とかなってます。私も太田さん(隠居研究会の本の著者)に大賛成。みんな納得です。くらし≠フこと、とくに食と高齢社会の問題で、しゃべったり書いたり、実践したりして、います。最高に幸せです。田舎の自然とたわむれて野菜もつくってます。(馬場さんの漢字・仮名遣いのママ。以下同じ)

 「最高に幸せです」――馬場さんにそう言わしめるものはなんなのか。私はそれをきいてみたかった。

 インタビュー依頼の手紙にOKの返信をいただいたのち、あらためて馬場さんにインタビューのお願いの電話をしたときの様子は、こうなふうだった。

 (馬場)ご苦労さまです。それで、どういう感じで?

 ――お会いしてお話をおうかがいできればと思っているんですけれど。僕はどこにでも出向きますから。

 (馬場)あら、ここまで来てくださるの?

 ――えぇ、おうかがいいたしますよ。

 (馬場)あら、ご苦労さんだわねぇ。でも、どんなこと話せばいいかしら? お役に立てるかしら?

 ――いやもう、「お役に立てる」だなんてとんでもないです。たとえば、「隠居」という生き方にどういう関心を持たれたのかとか、それと関連して、馬場さんがこれまでどういうふうに生きてこられて、これからどういうふうに生きていかれたいかとか、おうかがいできればなと思ってるんですけど。

 (馬場)しゃべらせてもらっていいのかしら?

 ――えぇ。もうざっくばらんに、井戸端会議みたいな感じで、自由に。杓子定規にやっても味気ないですし。

 こんな調子で、馬場さんは快くインタビューを承諾してくださった。馬場さんの声はとても明るく、歯切れのよいしゃべり方であった。電話をかける前はかなり緊張していた私であったが、電話が終わるころには馬場さんの快い対応にすっかり元気づけられていた。 ・・・・・
[本書157頁から159頁途中まで抜粋]



 
著者プロフィール:著者プロフィール【著者】小倉康嗣(おぐら やすつぐ)

立教大学・東京情報大学・東京外国語大学講師。 1968年生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、厚生省厚生事務官を経て、慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。日本学術振興会特別研究員(PD)、早稲田大学・聖心女子大学講師を経て、現職。社会学博士(慶應義塾大学、2005年)。 主な著書に、『近代日本社会学者小伝――書誌的考察』勁草書房(共著、1998年)、L・シャッツマン=A・L・ストラウス『フィールド・リサーチ――現地調査の方法と調査者の戦略』慶應義塾大学出版会(共訳、1999年)、『定年のライフスタイル』コロナ社(共著、2001年)、K・F・パンチ『社会調査入門――量的調査と質的調査の活用』慶應義塾大学出版会(共訳、2005年)など。 主な論文に、「大衆長寿化社会における人間形成へのアプローチ ――『人生過程としてのエイジング』への一つの視角と方法」(『年報社会学論集』11号、1998年)、「後期近代としての高齢化社会と〈ラディカル・エイジング〉――人間形成の新たな位相へ」(『社会学評論』205号、2001年)、「ゲイの老後は悲惨か?――再帰的近代としての高齢化社会とゲイのエイジング」(『クィア・ジャパン』vol.5、2001年)、「再帰的近代としての高齢化社会と人間形成――〈意味感覚としての隠居〉をめぐる現代中年のライフストーリーから」(『質的心理学研究』2号、2003年)、「ゲイのエイジング――地道で壮大な生き方の実験」(『歴博』137号、2006年)など。

 

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