金融政策の効果測定
銀行理論と因果推論による再検証
|
重要事項をつぶさに検討
四半世紀にわたる各種の金融市場調整策は、何が効いて何が不発だったのか。 金利政策、準備預金制度など伝統的手法の効き目が薄れた要因と、ゼロ金利、インフレ・ターゲティング、量的・質的緩和などの非伝統的手法の効果と限界を、バンチング推定、「差分の差分」法、回帰不連続デザインなどさまざまな因果推論の手法で検証する意欲的な研究書。
・1999年2月に始まった長い金融緩和の期間に講じられた非伝統的金融政策、特に2013年4月から執行された大規模緩和政策は、どれほど効果的だったのか。黒田東彦氏の後をうけて日銀総裁に就任した植田和男氏は就任1年後の2024年3月に量的・質的金融緩和を解除し、金融政策を「正常化」へと移行させつつある。元に戻すことが進むべき道なのか、それとも非伝統的金融政策に再び逆戻りするのか。この時点で双方の政策の効果と限界を再検討し、それぞれの政策を再評価しようというのが本書の趣旨である。
・本書はこの再評価の手法として、これまで先行研究で用いられてきた手法とは異なるアプローチで分析を進める。理論分析においては銀行部門を明示的に記述した産業組織モデルを用いる。金融政策分析の際にしばしば用いられるニュー・ケインジアン・モデルには「銀行部門」が入っていない者が多いが、本書のモデルでは信用創造のメカニズムを内包した「銀行部門」を分析し、それだけでなく、伝統的・非伝統的な金融政策を包括的に扱うことで、近年のさまざまな金融政策手段の問題点を浮き彫りにすることができる。
・実証分析では、近年発達の著しい因果推論を用いて分析を行う。特に、章ごとに異なる手法を用いるため、計量経済学の副読本として読んでいただくこともできる。用いる手法はパネルデータ・モデルと操作変数法、バンチング推定、傾向スコア法、中断時系列分析、シンセティック・コントロール法、差分の差分法、回帰不連続デザインである。
・金融政策研究のフロンティアを切り拓く一冊。

第1章 金融政策とはどのようなものか 第2章 産業組織モデルによる伝統的・非伝統的金融政策の理論分析 第3章 伝統的金融政策の再検討 第4章 準備預金制度は銀行の制約になるか 第5章 インフレ・ターゲティングは世界金融危機時に役割を果たしたのか 第6章 黒田バズーカが家計の借入意思に与えた影響 第7章 日銀のETF買入政策は株価を引き上げたか 第8章 日銀のETF購入が企業パフォーマンスに与える影響 第9章 日銀のマイナス金利政策は銀行貸出を増加させたか 第1 ……
著者略歴は書籍刊行時のものを表示しています。
郡司大志(ぐんじ ひろし) 1974年生まれ。97年、法政大学経済学部卒業、2003年、同大大学院社会科学研究科経済学専攻単位取得退学。07年、博士(経済学:法政大学)取得。日本学術振興会特別研究員(PD)、東京国際大学経済学部客員講師などを経て、現在 大東文化大学経済学部現代経済学科教授。2009年、財団法人納税協会連合会「税に関する論文」優秀賞受賞。 主な業績 “Did BOJ's Negative Interest Rate Policy Increase Bank Lending?” Japanese Economic Review, January 2024,Springer. 『マクロ経済学への招待』新世社、2024年 「東日本大震災の家計消費への影響について:恒常所得仮説 再訪」共著、齊藤誠編『震災と経済』第4巻所収、東洋経済新報社、2015年 など
|