常態化した「非伝統的」手段はどこに向かうのか
1998年の日銀法改正以来、日本の金融政策は「非伝統的金融政策」の導入と、黒田日銀総裁の指揮下での大胆な「異次元緩和」政策という二回の大きな変革を経験した。この間、FRBをはじめ主要国中銀がともに政策の枠組みを大転換させ、共通の新しい課題を抱える中、2023年に着任した植田和男新総裁はどのような舵取りで「出口」を模索するのか。本書はこれまでの経緯と今後の行方を理論・実証両面から分析する、金融市場関係者必読の一冊。
◆ 筆者は、大学卒業後、銀行の調査部、金融為替市場関連部署に20年近く在籍し、エコノミストとして実体経済と日米中央銀行の政策を分析した。その後、大学に移籍してアカデミズムの世界に身を置き、マクロ・金融理論の展開に接しながら金融政策を論じるようになった。そうした経歴の中から、政策・実務の現場からの視点と経済理論からの視点を併せ持った分析を行うことで、金融政策論に新たな貢献をもたらす第一線の研究者。
◆ 他の類書にみられない著者オリジナルの特色は、以下の通り。 @ 独自の「五分類法」で非伝統的政策手段を包括的に区分し、各手段の波及経路の分析、論争や誤解についての整理を行った。金融政策に対する誤解は、しばしば経済理論の通説的解釈から発生しているが、これを明らかにし、また金融実務の観点から理論と現実のギャップを浮彫りにした上で、アカデミズムの世界におけるモデルに沿った政策メカニズムの捉え方の現実にそぐわない点も指摘する。制度や政策枠組みの時系列的な変化の分析には、理論的な観点を取り込んでいる(1章、2章、3章)。 A 中央銀行の「期待」に働きかける政策として、フォワードガイダンス、コミュニケーション戦略、インフレ目標政策という三つの政策の相互関係を、国際比較も含めて分析した(4章)。 B 日銀の異次元緩和の包括的な分析(6章)に加え、「新常態」の政策レジームを「超過準備保有型金融政策」として定式化した(5章)。さらに、コロナ危機が中央銀行に与えたインパクトの整理(5章)や、現代の中央銀行が抱える諸問題の整理・検討(7章)においても、金融政策論に一定の貢献を行っている。
『週刊エコノミスト』 2024年4月16・23日号「 Book Review 話題の本」(p.54)に書評が掲載されました。評者は、服部茂幸氏(同志社大学教授)です。
『週刊金融財政事情』 2024.3.5号「一人一冊」(p.50)に書評が掲載されました。評者は、早川英男氏(東京財団政策研究所主席研究員)です。
第1章 短期金利誘導型金融政策とその形成 短期金利誘導型金融政策の理念型――メカニズムと波及経路/主要パーツとしての公開市場操作、信用創造、準備預金制度/短期金利誘導型金融政策とその形成過程――FRBと日銀の場合 (コラム1)信用創造メカニズムの通説的な説明
第2章 非伝統的金融政策の諸手段とそのメカニズム 非伝統的金融政策とは何か/大量資金供給/大量資産購入/フォワードガイダンス/貸出誘導資金供給/マイナス金利政策 (コラム2)非伝統的金融政策の分類学
第3章 主要国中央銀 ……
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田中隆之(たなか・たかゆき) 1957年長野県生まれ。81年、東京大学経済学部卒業。日本長期信用銀行入行、調査部に配属。調査部ニューヨーク市駐在エコノミスト、マーケット営業部調査役などを経て、94年、長銀総合研究所主任研究員、97年、長銀証券投資戦略室長チーフエコノミスト。2001年、専修大学経済学部教授。現在に至る。この間、2004年に博士(経済学)を専修大学より取得。2012年度ロンドン大学(SOAS)客員研究員。2022年より経済学部長。主著に『現代日本経済 バブルとポスト・バブルの軌跡』日本評論社、2002年、『「失われた十五年」と金融政策』日本経済新聞出版社、2008年、『総合商社の研究』東洋経済新報社、2012年、『アメリカ連邦準備制度の金融政策』金融財政事情研究会、2014年など。
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