翻訳地帯
――新しい人文学の批評パラダイムにむけて
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翻訳研究と文学を融合する
9.11「同時多発テロ」以降、ますます混迷する世界状況にたいし、人文学はどのようなことばで相対することが可能だろうか? 著者は、「戦争とは他の手段をもってする誤訳や食い違いの極端な継続にほかならない」という定義から出発し、単一言語(英語)主義がうむ世界の軋轢に警鐘を鳴らしつつ、「翻訳」の観点から新たな人文学のアプローチを模索する。 本書で俎上に上げられるのは、第二次世界大戦中のシュピッツァー、アウエルバッハの思想にある人文主義的コスモポリタニズム、スピヴァク、サイードの惑星的批評、ウリポなどの実験的な言語芸術の政治性、クレオールやバルカン半島の多言語状況の文学、さらには現代アートと擬似翻訳を例にした翻訳とテクノロジーの問題……など多岐にわたる。 「翻訳可能なものはなにもない」「すべては翻訳可能である」――二つの矛盾するテーゼを掲げ、言語と言語の狭間にあるものを拾いあげること、「翻訳中」のままに思考しつづけることを提言する。
図書新聞 2022年4月16日(第3539号)の岡和田晃氏「〈世界内戦〉下の文芸時評」第86回(4面) にて、本書が紹介されました。
『れにくさ』 2019年9号(p.199〜p.201)に書評が掲載されました。評者は片山耕二郎氏です。
世界文学 128号(p.80〜p.82)に書評が掲載されました。評者は戸塚学氏(武蔵大学人文学部准教授)です。
翻訳をめぐる二十の命題
イントロダクション
イントロダクション
第一章 9・11後の翻訳――戦争技法を誤訳する
第一部 人文主義(ヒューマニズム)を翻訳する
第二章 人文主義(ヒューマニズム)における人間(ヒューマン) 第三章 グローバル翻訳知(トランスラテイオ)――比較文学の「発明」、イスタンブール、一九三三年 第四章 サイードの人文主義(ヒューマニズム)
第二部 翻訳不可能性のポリティクス
第五章 ……
著者略歴は書籍刊行時のものを表示しています。
【著者】 エミリー・アプター(Emily Apter) 1954年生まれ。1983年プリンストン大学比較文学科で博士号を取得。ニューヨーク大学フランス文学・比較文学教授。おもな著作に、Feminizing the Fetish: Psychoanalysis and Narrative Obsession in Turn-of-the-Century France (1991), Continental Drift: From National Characters to Virtual Subjects (1999), Against World Literature: On The Politics of Untranslatability (2013) など。
【訳者】 秋草俊一郎(あきくさ・しゅんいちろう) 1979年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科修了。博士(文学)。現在、日本大学大学院総合社会情報研究科准教授。専門は比較文学、翻訳研究など。著書に、『ナボコフ 訳すのは「私」――自己翻訳がひらくテクスト』、『アメリカのナボコフ――塗りかえられた自画像』(近刊)。訳書に、バーキン『出身国』、ナボコフ『ナボコフの塊――エッセイ集1921−1975』(編訳)、ダムロッシュ『世界文学とは何か?』(共訳)など。
今井亮一(いまい・りょういち) 1987年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程在籍。2014-15年度サントリー文化財団鳥井フェロー。専門は比較文学など。論文に、「中上健次の「日本語」について――翻訳研究の視点から読む中期作品」(『れにくさ』第8号)など。共著書に、『スヌーピーのひみつ A to Z』。共訳書に、ハント『英文創作教室 Writing Your Own Stories』、モレッティ『遠読――〈世界文学システム〉への挑戦』など。
坪野圭介(つぼの・けいすけ) 1984年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得満期退学。現在、同大学院特任研究員。専門はアメリカを中心とした都市文学・文化。論文に、「形式は機能に従う――詩人カール・サンドバーグと建築家ルイス・サリヴァンの摩天楼」(『れにくさ』第8号)など。 訳書に、キッド『判断のデザイン』、シールズ他『サリンジャー』(共訳)など。
山辺弦(やまべ・げん) 1980年生まれ。 東京大学大学院総合文化研究科修了。博士(学術)。現在、東京経済大学経済学部専任講師。専門は現代スペイン語圏のラテンアメリカ文学。 著書に、『抵抗と亡命のスペイン語作家たち』(共著)。訳書に、アレナス『襲撃』、ピニェーラ『圧力とダイヤモンド』、ダムロッシュ『世界文学とは何か?』(共訳)など。
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