天才芸術家と独裁者の奇妙な「共犯」関係を暴きだす
ソヴィエト社会主義時代、独裁者スターリンにたいし抵抗とも服従ともいいがたい両義的な態度をとったショスタコーヴィチ。彼が生み出した作品もまた、時にプロパガンダ風であり、時に反体制的であるような二重性を帯びていた。 著者ヴォルコフは、ショスタコーヴィチ再評価の機運をつくった前著『ショスタコーヴィチの証言』刊行四半世紀を経て、歴史的裏付けをとりつつ、独自の手法により作曲家の実像にさらに迫ろうと試みている。本書では、内面的なジレンマを抱えながらも、スターリンと直接わたりあうショスタコーヴィチを、ロシア史上の独特の人格、聖愚者(ユロージヴィ)に見立て、権力者との対峙の仕方を詳細に分析しているのである。 スターリンは冷酷な顔をもつと同時に、芸術を愛する独裁者でもあった。しかし単に芸術家を庇護したわけではなく、彼らを国家的プロパガンダに利用し、弾圧した。パステルナーク、マンデリシターム、ブルガーコフ、エイゼンシュテイン、ゴーリキー、プロコーフィエフ……同時代の芸術家との関わりのなかで、ショスタコーヴィチは全体主義と芸術の相克をどのように乗り越えようとしたのか、スリリングに描き出していく。
図書新聞 第3362号(2018年8月4日)1面に書評が掲載されました。評者は三輪智博氏(現代史研究)です。
読売新聞 2018年6月3日「読書面」(14面)に書評が掲載されました。評者は塚谷裕一(植物学者・東京大教授)と三浦瑠麗(国際政治学者・東京大講師)です。
週刊読書人 2018年5月25日に書評が掲載されました。評者は小宮正安氏(横浜国立大学教授)です。 本文はこちら
序文
プロローグ 皇帝と詩人
第一章 幻影と誘惑
第二章 一九三六年――原因と結果
第三章 一九三六年――スフィンクスの目前で
第四章 皇帝の慈悲
第五章 戦争――憂慮と大勝利
第六章 一九四八年――「あらゆる場所に目を光らせ、敵を根絶せよ!」
第七章 断末魔の痙攣と皇帝の死
エピローグ スターリンの陰に
英語版出典註 人名解説 訳者あとがき 亀山郁夫 索引
著者略歴は書籍刊行時のものを表示しています。
【著者】 ソロモン・ヴォルコフ(Solomon Volkov) 1944年、旧ソ連タジク共和国生れ。アメリカを拠点として活躍する音楽学者・ロシア文化史家・ジャーナリスト。1959年、レニングラード音楽院付属特別音楽学校入学。レニングラード音楽院卒業後、雑誌『ソヴィエト音楽』の編集員を務める。1976年、アメリカに亡命。著作に『ショスタコーヴィチの証言』(中央公論社、1980年)、『チャイコフスキー わが愛』(新書館、1993年)、『ロシアから西欧へ――ミルスタイン回想録』(春秋社、2000年)など。
【訳者】 亀山 郁夫(かめやま いくお) 名古屋外国語大学学長。東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。 著作に、『磔のロシア――スターリンと芸術家たち』(岩波現代文庫、2001年)、『熱狂とユーフォリア――スターリン学のための序章』(平凡社、2003年)など。
梅津 紀雄(うめつ のりお) 工学院大学教育推進機構非常勤講師。東京大学大学院総合文化研究科博士課程満期退学。 著作に、『ショスタコーヴィチ――揺れる作曲家像と作品解釈』(東洋書店、2006年)、「芸術音楽から見たソ連――雪どけ期のショスタコーヴィチを中心に」(浅岡善治・中嶋毅責任編集『ロシア革命とソ連の世紀4 人間と文化の革新』岩波書店、2017年)など。
前田 和泉(まえだ いずみ) 東京外国語大学大学院准教授。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。 著作に、『マリーナ・ツヴェターエワ』(未知谷、2006年)、訳書に、リュドミラ・ウリツカヤ『通訳ダニエル・シュタイン』(新潮社、2009年)など。
古川 哲(ふるかわ あきら) 東京外国語大学・共立女子大学非常勤講師。東京外国語大学大学院地域文化研究科博士後期課程修了。 著作に、「プラトーノフ『土台穴』における動物と人間のあいだ」(『総合文化研究』第14-15合併号、2011年)、「『エーテルの道』から『ジャン』へ――1920〜30年代のプラトーノフ作品にみられる人間と自然の関係における変化をめぐって」(『ロシア・東欧研究』第42号、2013年)など。
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