水俣の記憶を紡ぐ
響き合うモノと語りの歴史人類学
序 章 第1節 本書の射程――水俣が切りひらく問い 第2節 「現在」を解きほぐす――歴史人類学の視点 1 記憶をいかに捉えるか 2 「民族誌的現在」 3 「文化の構築」論のジレンマ 4 実践される歴史への通時的アプローチ 第3節 モノの力――「物質文化研究」の視点 1 「解釈人類学的なモノ研究」 2 「物質文化研究」の通時的視点――「モノの再文脈化」論 3 エージェンシー論の射程 第4節 「響き合うモノと語りの歴史人類学」へ 第5節 本書の構成とフィールドワークの概要
第1章 水俣の歴史的概要 第1節 水俣市の概要 第2節 水俣の近代化 1 不知火の海 2 チッソ工場設立による工業化の進展(一九〇八〜五六年) 3 水俣病の隠蔽と重層的な差別(一九五六〜六八年) 4 水俣病第一次訴訟と自主交渉闘争(一九六八〜七三年) 5 未認定患者運動の興隆と水俣湾の埋立て(一九七三〜九〇年) 6 地域再生事業の展開とその後(一九九〇年〜現在) 第3節 「水俣研究」の歩み 1 水俣病が顕在化する以前の水俣研究(一九〇八〜五六年) 2 加害と被害の実態解明(一九五六〜七三年) 3 近代化論の再検討(一九七三〜九〇年) 4 水俣の歴史構築(一九九〇年〜現在)
第2章 水俣湾埋立地の景観形成過程 第1節 水俣湾埋立地の現景観 第2節 埋立てをめぐる多様な立場と主張(一九七七〜八〇年) 第3節 埋立地活用をめぐる対話と歩み寄り(一九八〇〜九〇年) 第4節 新たな対立の顕在化(一九九〇〜九九年) 第5節 「本願の会」の活動 1 「本願の会」について 2 「本願の会」による石像製作の概要 3 石彫りの過程にみる「受け手」としての「つくり手」
第3章 水俣の景観に立つ五二体の石像たち ――「本願の会」による石像の形態と空間配置をめぐって 第1節 はじめに 第2節 モノを媒介とした歴史構築の実践 1 石像の建立と「日月丸」の航海 2 「本願の会」による石像の形態的特徴 3 石像の形態と空間配置の経時的変化に関する分析 4 石像建立による歴史構築の実践 第3節 石像の「個性」について 1 多面に配置されるモチーフと記銘 2 モチーフ間の連鎖的関係 第4節 おわりに
第4章 モノを媒介とした水俣病経験の語り直し ――「本願の会」メンバーのライフヒストリーをめぐる一考察 第1節 はじめに 第2節 水俣病顕在化以前の漁村の暮らし 1 沖集落の成り立ちと漁業の変遷 2 幼少期のO氏の暮らし 3 水俣病の発生 第3節 石像建立に至るまでのO氏の語りの変化 1 水俣病をめぐる運動への参加(一九七四〜八五年) 2 運動の離脱から石彫りの開始まで(一九八六〜九六年) 第4節 石像の建立と水俣病経験の語り直し 第5節 「一人の私」に立ち返る 1 漁師としてのO氏 2 加害と被害の相対化をめぐって 3 モノとコト
第5章 モノが/をかたちづくる水俣の記憶 ――「本願の会」メンバーによる石像製作と語りの実践を事例に 第1節 モノと語りの相互作用をめぐる問題 第2節 石像を介した死者をめぐる想起の変容――J氏の事例 1 新たな生き方を求めて 2 水俣での出会いと石像の建立 3 J氏によるY氏についての語り(二〇〇八年の語り) 4 石像を介して死者の声を語り直す(二〇〇九年以降の語り) 第3節 語りえなさに関与する石像――A氏の事例 1 神が寄りつく渚 2 「五、六歳」の時間がもつ意味(二〇〇八年の語り) 3 言語化を促す触媒としての石像(一九九四〜二〇〇八年) 4 語りえない心情を想起させる石像(二〇〇九年の語り) 5 周囲の景観と複合的に作用する石像(二〇〇九年以降の語り) 第4節 石像のマテリアリティ
終 章 第1節 「響き合うモノと語り」の分析 第2節 「本願の会」が切りひらくもの 1 「相対」というキーワード 2 水俣湾の埋立てと新たな連帯――「もう一つのこの世」 3 「本願の会」への批判――「闘い」とは何か 4 重層的な〈つながり〉を生きる 第3節 「毒」を引き受ける 1 「のさり」の海 2 「問い」を喚起する石像 第4節 Anthropology of object/ thing/ materialから「もの(mono)」の歴史人類学へ
註 参考文献 あとがき 初出一覧 索引
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