人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか

基本データ 人手不足と賃金停滞 玄田有史・深井太洋
序 問いの背景 玄田有史
第1章 人手不足なのに賃金が上がらない三つの理由 近藤絢子 ポイント 【規制】 【需給】 【行動】 1 求人増加の異なる背景 2 医療・福祉:介護報酬制度による介護職の賃金抑制 3 「人手不足イコール労働力に対する超過需要」ではない可能性 4 名目賃金の下方硬直性の裏返し 5 複合的な要因解明が必要
第2章 賃上げについての経営側の考えとその背景 小倉一哉 ポイント 【制度】 1 賃上げ率と賞与・一時金の動向 2 経団連の主張と主な特徴 3 成果主義の普及 4 経営環境の変化 5 今後も不透明は漂う
第3章 規制を緩和しても賃金は上がらない ――バス運転手の事例から 阿部正浩 ポイント 【規制】 【制度】 1 バス需要の増加と深刻な運転手の人手不足問題 2 バス運転手の仕事と労働市場の特徴 3 バス運転手の賃金構造の変化 4 なぜ賃金水準は下がったのか 5 バス運転手の労働市場の問題か
第4章 今も続いている就職氷河期の影響 黒田啓太 ポイント 【年齢】 【正規】 【能開】 1 「就職氷河期世代」への注目 2 同一年齢で見る世代間賃金格差 (1) 学歴別・性別によるちがい (2) 雇用形態別の給与額 (3) 給与額増減の要因分解 (4) 「就職氷河期世代」の労働者数に占める割合について 3 「就職氷河期世代」の賃金が低い理由 4 氷河期世代の悲劇
第5章 給与の下方硬直性がもたらす上方硬直性 山本 勲・黒田祥子 ポイント 【行動】 1 下方硬直性によって生じ得る名目賃金の上方硬直性 2 名目賃金の下方硬直性が生じる理由とエビデンス 3 企業のパネルデータを用いた検証 (1) 利用するデータと検証方法 (2) 過去の賃金カットと賃上げの状況 (3) 名目賃金の下方硬直性と上方硬直性の関係 4 日本の賃金変動の特徴と政策的な含意
第6章 人材育成力の低下による「分厚い中間層」の崩壊 梅崎 修 ポイント 【制度】 【能開】 1 「欲しい人材」と「働きたい人材」のズレ 2 「分厚い中間層」の崩壊 3 New Deal at Workのジレンマ 4 企業内OJTの衰退 (1) 長期競争よりも短期競争 (2) 経験の場の消失 5 解決策は実現可能な希望なのか
第7章 人手不足と賃金停滞の並存は経済理論で説明できる 川口大司・原ひろみ ポイント 【正規】 【需給】 【能開】 1 問題意識――パズルは存在するか 2 企業の賃金改定の状況とその理由 3 労働者の構成変化が平均賃金に与える影響 4 女性・高齢者による弾力的な労働供給 5 労働供給構造の転換点と賃金上昇 6 賃金が上昇する経済環境を整えるために――人的資本投資の強化
第8章 サーチ=マッチング・モデルと行動経済学から考える賃金停滞 佐々木勝 ポイント 【需給】 【行動】 1 日本だけの問題なのか 2 標準モデルから予想できること 3 モデルは循環的特性を再現できるか 4 なぜ賃金調整は硬直的なのか 5 賃金硬直性の帰結と背景
第9章 家計調査等から探る賃金低迷の理由――企業負担の増大 大島敬士・佐藤朋彦 ポイント 【年齢】 【正規】 【制度】 1 世帯の側からの視点 2 世帯主の勤め先収入 3 世帯主の年齢分布 4 高齢化・非正規化の影響 5 増加する賃金以外の雇主負担 (1) 上昇する社会保険料率 (2) 非消費支出比率の上昇 (3) 世帯主の勤め先収入 (4) 1人あたり雇主の社会負担 6 社会保険料率等の引き上げの影響
第10章 国際競争がサービス業の賃金を抑えたのか 塩路悦朗 ポイント 【規制】 【需給】 1 高齢化社会と「あり得たはずのもう一つの現実」 2 パズルは本当にパズルなのか――国際競争に注目する理由 3 イベント分析の対象としてのリーマン・ショック 4 検証1:求職者は対人サービス部門に押し寄せたか 5 検証2:求職者の波に対人サービス賃金は反応したか 6 検証結果のまとめ 7 労働市場で何が起きているのか? 図解 8 今後の課題:なぜ対人サービス賃金は硬直的なのか
第11章 賃金が上がらないのは複合的な要因による 太田聰一 ポイント 【正規】 【需給】 【年齢】 1 原因は一つではない 2 非正規雇用者の増大 3 賃金版フィリップス曲線から 4 誰の賃金が上がっていないのか 5 議論――「世代リスク」にどう対処するか
第12章 マクロ経済からみる労働需給と賃金の関係 中井雅之 ポイント 【需給】 【正規】 1 日本的雇用慣行の特徴から労働需給と賃金の関係を考える 2 労働需給と賃金は必ずしも連動しない 3 需給変動と内部・外部労働市場 4 雇用の非正規化と一般の時間あたり賃金の動向 5 労働市場の課題と労働政策
第13章 賃金表の変化から考える賃金が上がりにくい理由 西村 純 ポイント 【制度】 1 賃金の決まり方 (1) 賃金表 (2) 三つの要素 2 昇給の仕組み(三つの方法) 3 昇給額決定の実際 (1) 「積み上げ型」の賃金表 (2) 「ゾーン別昇給表」の登場 (3) ベースアップ (4)賃金表変化の背景 4 賃金を上げるために
第14章 非正規増加と賃金下方硬直の影響についての理論的考察 加藤 涼 ポイント 【正規】 【年齢】 【行動】 1 なぜ賃金は上がりにくくなったのか――問題の所在 2 賃金が硬直的な下での正規・非正規の二部門モデル 3 賃金の下方硬直性と上方硬直性 4 人的資本への過少投資と賃金の上方硬直性
第15章 社会学から考える非正規雇用の低賃金とその変容 有田 伸 ポイント 【正規】 1 社会学と国際比較の視点から 2 日本の非正規雇用とは何か (1) 正規/非正規雇用間の賃金格差 (2) 賃金格差の強い「標準性」 (3) 非正規雇用の補捉方法の特徴 3 なぜ日本の非正規雇用の賃金は低いのか (1) 格差の正当化ロジックへの着目 (2) 企業による生活保障システムと格差の正当化 (3) もう一つの正当化ロジックと都合のよい使い分け 4 非正規雇用の静かな変容 5 なぜ賃金が上がらないのか――非正規雇用に着目して考える
第16章 賃金は本当に上がっていないのか――疑似パネルによる検証 上野有子・神林龍 ポイント 【需給】 【年齢】 1 上がらない賃金? 2 賃金センサス疑似パネルからみた名目賃金変化率 3 賃金総額の変化の分解 4 結論――上がらない賃金と人手不足傾向の解釈
結び 総括――人手不足期に賃金が上がらなかった理由 玄田有史
あとがき
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