発表、表現、パフォーマンスをするすべての人へ
「プレパタ」=プレゼンテーション・デザインのための
発想パターンを贈ります。
井庭 崇
慶應義塾大学准教授
仕事や学業、日常生活において、人前で話したり、何かを披露したりする「プレゼンテーション」の機会が増えています。ビジネス・企画の提案、学術・技術の発表、映像・Webでの表現、演技・演奏のパフォーマンス、面接での自己アピールなど、日々、私たちはいろいろなタイプのプレゼンを行いながら生きています。
このようななか、みなさんは、いまの自分のプレゼンテーションに満足しているでしょうか? もっとうまく、魅力的でワクワクするようなものにしたいと思っているのではないでしょうか? もしそうであれば、本書『プレゼンテーション・パターン ―― 創造を誘発する表現のヒント』は、あなたの力になるはずです。どのように力になれるのか、ここで少し語ってみたいと思います。
プレゼンをつくるためには、実はとても高度な「デザイン」の力が求められます。ここでいうデザインというのは、スライドなどの見た目のグラフィック・デザインの話でなく、「どのようなプレゼンテーションにするのか」という意味での「デザイン」=「設計」です。 プレゼンがうまい人は、「どのようにまとめ」「どのように魅せ」「どのように振る舞うのか」ということを考えながら、プレゼンのデザイン=設計をしています。
このように高度なデザインの力が必要にもかかわらず、プレゼンのデザインについては、教わるという機会がほとんどありません。実践を重ねて経験から学んでいくしかないとさえ言われます。もちろん、身につけるためには実践することが不可欠ですが、そもそも、デザインにおいてどのような発想をすればよいのかがわからない状態では、豊かな実践や経験を生み出すことはできず、そこから学ぶこともできないというのが本当のところです。ここが、プレゼンテーションのデザインの力を身につけることが難しい理由になっています。
このような現状に対し、プレゼンテーション・デザインにおける発想パターンを言語化・共有することで、より多くの人が「どのようにまとめ」「どのように魅せ」「どのように振る舞うのか」について発想できるようになる ―― 本書はそのような考えのもと執筆されました。プレゼンテーション・デザインのための発想パターンを「プレゼンテーション・パターン」(プレパタ)と呼び、それを34個収録しました。これらのパターンを駆使することで、プレゼンテーションをつくる際に、どのようにまとめ、どのように魅せ、どのように振る舞うのかを考えることができるようになるのです。
プレパタ (プレゼンテーション・パターン)は、プレゼンテーションのデザインにおける「問題発見・問題解決」を支援するために、どのような「状況」で、どのような「問題」が生じやすく、それをどう「解決」するとよいのか、ということがまとめられています。これにより、いま自分がいる「状況」でどのような「問題」が生じやすいのかを予見したり、「問題」が生じているときにその「解決」を考えたりすることを支援してくれるのです。
このように「状況」「問題」「解決」の3要素によってデザインの実践知を記述する方法を、「パターン・ランゲージ」といいます。パターン・ランゲージの方法は、いまから30年ほど前、建築の分野で提唱されました。いきいきとした美しい町をつくるための建築デザインの発想をパターンとしてまとめたのです。それは、建築家が暗黙的にもっている建築デザインの発想をパターンとして記述することで、住人たちがその発想を知り、住民参加型のまちづくりができるようになることが目指されました。その後、パターン・ランゲージの方法は、ソフトウェア・デザインの分野に応用され、有名になりました。
現在、私たち井庭研究室では、このパターン・ランゲージの方法を、人間活動の実践知の記述に応用しています。その成果の一つが、 プレパタ (プレゼンテーション・パターン)なのです。プレゼンテーション・パターンの他にも、創造的な学びを支援する「ラーニング・パターン」や、創造的コラボレーションを支援する「コラボレーション・パターン」などがあります。これらのパターンも、本書を皮切りに「パターン・ランゲージ・ブックス」シリーズとして刊行していきます。また、「パターン・ランゲージ」の考え方をより深く理解するための新しい本も準備中です。お楽しみに!
本書で紹介する プレパタ(プレゼンテーション・パターン)は、みなさんを画一的なモデルにはめ込んだり、表層的なハウツーを拙速に教えるものではありません。みなさんの現状から出発し、プレゼンテーション・デザインの力を自分らしく拡張・成長させていくことを支援するようにつくられています。34個のプレゼンテーション・パターンを一気に取り入れるというのではなく、そのときどきに「いまの自分にこれが大切だ」「これを取り入れたい」と思うものを1つずつ取り入れていってください。そして、あなた自身の状況・状態によって、読む度ごとに異なる部分に発見があるはずなので、机や本棚の近いところに置いておき、 時間をあけて何度も読んでみてほしいと思います。
本書、『プレゼンテーション・パターン ―― 創造を誘発する表現のヒント』は、Webやtwitter等で大好評の「プレゼンテーション・パターン」を、書籍版として新たに書き下ろしたものです。具体例やエピソードを加えて、読みやすく味わいやすく、活用しやすいようにしました。ぜひこの「表現のヒント」を、みなさんのプレゼンテーションに活かしていただければと思います。
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