■第4回 「1920-1930年代のクラウス」を公開しました。
■刊行! 『カール・クラウスと危機のオーストリア――世紀末・世界大戦・ファシズム』(高橋 義彦 著) 書籍はこちらをご覧ください。
政治権力との癒着、スポンサーへの忖度、世論の操作、こうした問題はマスメディアが構造的に抱えるものといえるだろう。現代世界においても、果たしてテレビや新聞が伝えることは本当に真実なのか、日々問いが投げかけられている。
そんなマスメディアの問題を独立した立場から批判するために、個人で執筆・編集・発行する雑誌を作ろうと思い立った男が、100年以上前のウィーンにいた。既存のメディアが信用できないならば、自分でメディアを作ってしまえばいい、と考えたのだ。彼の名はカール・クラウス(1874‐1936)、その雑誌は『ファッケル』という。
クラウスはこの独立自営の小メディアを基盤に、マスメディア(当時それは新聞を意味していた)が伝える出来事の虚偽や矛盾を暴き続けた。1899年に創刊された『ファッケル』は、1936年の彼の死により中断するまで、全922号も刊行されている。
この『ファッケル』をためしにひも解くと、実に多岐にわたる問題が論じられている。政界や財界の腐敗や司法権力への批判から、文学・音楽・演劇・絵画など芸術への批評まで、一人の人間が書いたとは思えないほど、さまざまな主題が取り上げられている。あるクラウス研究者はこれを評して、『ファッケル』とは「中欧の公的生活の百科事典」である、と論じているほどだ。『ファッケル』の人名索引を作った研究者もいるのだが、それにはなんと1万人を超える人名が記録されている。
またクラウスは、『ファッケル』に掲載した論説以外にも独立した著作もいくつか書いている。クラウスは第一次世界大戦中に反戦派として活動したが、その成果は戦後長大な反戦戯曲『人類最後の日々』に結実した。また1933年冒頭から迫り来るナチズムの脅威の下で書かれた『第三のワルプルギスの夜』は、政治哲学者のエリック・フェーゲリンがナチズム研究の「必読文献」と呼ぶほどの大作である。
この膨大な著作群の中から、本書ではクラウスの人生を、「世紀末」、「第一次世界大戦」、「ファシズム」と三つの時期に分け、それぞれ「政治史」、「文化史」の観点から論じている。これから3回にわたって、それぞれの時期について簡単な解説をしていこう。
(高橋義彦)
第1回 | 「カール・クラウスとは誰か?」(2016年4月8日 掲載) |
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第2回 | 「世紀末ウィーンとクラウス」(2016年4月15日 掲載) |
第3回 | 「第一次世界大戦とクラウス」(2016年4月22日 掲載) |
第4回 | 「1920-1930年代のクラウス」(2016年4月28日 掲載) |
▼オーストリア/ハプスブルク帝国の危機~ナチスの脅威に向き合い、それを乗り越えようとした孤高の言論人、カール・クラウス(1874-1936)の思想と行動を読み解くとともに、「世紀末」「第一次世界大戦」「ファシズム」という三つの時代における、オーストリア/ウィーンの政治思想・文化的状況を浮き彫りにする。
▼第一次大戦時には好戦的なメディアや政治家を、自らの個人評論雑誌『ファッケル』で厳しく批判したクラウス。ところが、解体した帝国からオーストリア共和国に再編成されたのち、彼はナチスから独立を守る擁護者としてのオーストリア・ファシズム=ドルフス政権への支持を表明する。彼の真意はどこにあったのか? これまで一見、政治的な解釈が難しいとされてきた彼に、本書はオーストリアの真の独立、「オーストリア理念」を追求する姿勢を見いだす。
▼建築家アドルフ・ロース、精神分析家フロイトや保守思想家ラマシュとの関係なども描かれ、オーストリアの世紀末から第二次大戦前夜までの文化的・思想的状況をも浮き彫りにする、注目の一冊。
分野 | 人文書 |
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初版年月日 | 2016/04/22 |
本体価格 | 3,600円(+税) |
判型等 | 四六判/上製/288頁 |
ISBN | 978-4-7664-2331-0 |
書籍詳細 | 目次や詳細はこちら |
1983年北海道生まれ。慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻後期博士課程修了。博士(法学)。慶應義塾大学・専修大学・國學院大学栃木短期大学非常勤講師。
主要著作:「エリック・フェーゲリンのウィーン ―― オーストリア第一共和国とデモクラシーの危機」(『政治思想研究』第12号、2012年)、共訳書にリチャード・タック『戦争と平和の権利――政治思想と国際秩序:グロティウスからカントまで』(風行社、2015年)。