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編集後記  第66巻10号 2018年10月
 

▼「教育と医学」が始まった一九五三(昭和二十八)年の当時は、「学校教育と医療連携」が必要とされる疾患は、「結核」「小児麻痺」といった「感染症」に関連するものが中心であった。「学校教育と医療連携」のあり方は、「管理型」であり、「治癒」を促進することや、「休養や教育の免除」によって、悪化を予防することが重視されている時代であった。

 一方、二〇一八年の現在は、「喘息」「アトピー性皮膚炎」といったアレルギー性疾患や、「発達障害」「うつ病」などの「メンタルヘルスに関する疾患」といった疾患が中心である。このような疾患においては、本人が、「学業」「生活」「人生」をより豊かにしていくことを重視する「支援型」の「学校教育と医療連携」が望ましいと考えられる。

▼それでは、今日、どのような「学校教育と医療連携」をしていけばいいのであろうか。筆者は、「本人の心の尊重」「自立の支援」「生活と人生の連続性の維持」といった価値を、「学校サイド」と「医療サイド」が共有することが、豊かな「連携」につながると考える。

 まず、「本人の心の尊重」では、本人が自分の「疾病や状態」を上手に受け止められるような情報の提供が必要である。医療では「プレパレーション」という概念がある。これは「心理的準備」と訳され、子どもが医療を受ける際に、子ども本人が納得できるような方法で説明を行うことである。プレパレーションを行うことで、不安、恐怖、混乱といった心理的な反応を抑制されることが知られている。したがって「本人の心のありよう」に関心をもった「連携」を行うことが望ましい。

 次に、「自立の支援」である。「自立」は様々な経験を免除されることでは生まれてこない。むしろ、やや困難なことに挑戦し「成功体験」を積み重ねることによって育まれるものである。リスクを定量的に判断しつつも、「できる限り挑戦させていく方向」での「連携」が期待される。

 そして、「生活と人生の連続性の維持」である。「学校サイド」では、「学校にいるときの子ども」だけを考え、「医療サイド」は「子どもの病気」だけに集中しがちである。しかし、子どもにとっては、「生活や人生の連続性の支援」が必要なのである。「学校が終わってからの時間」や「家にいる時の時間」も重要な時間である。そして、「学校生活」が終わった後の「人生」も考えていく必要がある。

▼病気や障害があっても、子どもができる活動や学習は無限である。「連携」においては、「させてはいけないこと」に焦点を当てがちである。それだけではなく、「どうしたら本人が課題を克服できるか」にも光を当てるほうが望ましい。そうすれば、「子どもの課題」を明白にした上で、「成功体験に導く活動」を支援して、「子どもが自己肯定感をもてるための連携」に向けた「ノウハウ」が蓄積されていくと考えられる。なお、ICTの活用していくことは、「連携」を効率的ばかりでなく、豊かで確実なものにすると思われる。

 

(馬場園 明)
 
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