流動する中国社会
疎外と連帯

序章 (鄭浩瀾)
第一部 何を包摂し、何を疎外したのか 国家レベルでいかなる「政治的連帯」が作られ、その背後で何が疎外されたのかを考察する。
第1章 人民民主独裁体制における労働者の連帯と疎外(小嶋華津子 慶應義塾大学教授) 「労働者階級」という「政治的連帯」に注目し、毛沢東時代から今日に至る労働者統治の実態は、「人民民主独裁」という共産党の統治理念とは裏腹に、幹部の特権化や労働者内部の対立など、労働者の疎外を伴うものであったことを指摘する。
第2章 人民をつくる――人民代表大会の代表とは誰か(加茂具樹 慶應義塾大学教授) 人民代表という「政治的連帯」に焦点を当て、共産党の統治における人民代表の政治的役割を理論的かつ実証的に考察する。
第3章 文化大革命の派閥抗争とは何だったのか(谷川真一 神戸大学教授) 支配階級である人民とその敵との闘争―いわゆる階級闘争―とは、いかなるものだったのか。文化大革命の派閥闘争を考察する。
第4章 中国社会の逸脱と管理――改革開放後の社会統制を中心に(金野純 学習院女子大学教授) 「人民」か「敵」か、その判断基準は曖昧であり、国家によって「敵」として疎外されたのは、おおむね「あるべき」秩序の逸脱者や国家の脅威と認定された者だった。本章では国家が「敵」を疎外することを通して行った社会統制について考察する。
第5章 近代中国リベラリズムからみる疎外と連帯(中村元哉 東京大学教授) 「疎外」された者に目を移すと、その内実は多様かつ複雑なものであり、状況に応じて変容してきた。この点に注目して、中国における近代リベラリズム思想の系譜を歴史的に考察する。
第二部 ダイナミックな社会―国家関係 複雑で流動的な社会のありように着目し、国家―社会関係のダイナミズムを描く
第6章 二〇世紀前半、中国華南地域における社会構造と武装勢力(山本真 筑波大学教授) 農村社会の結合関係または土着の連帯関係を歴史的に考察し、民衆がさまざまな社会的繫がりや武装組織に依存して自らの生存を図った。
第7章 「境界」を問う――農村社会の連帯関係からみた革命と社会主義(鄭浩瀾、慶應義塾大学准教授) 血縁・地縁的関係を中心とする連帯は強い生命力を保ち、変容しながら社会主義体制を支える社会の基盤となった。
第8章 現代中国におけるフェミニズムの連帯の系譜――セクシュアリティの自由をめぐって(大橋史恵 お茶の水女子大学准教授) 1995年の世界女性会議をきっかけに相互の連帯を模索しつつ展開されてきたフェミニストたちの活動が、2010年代以降は国家の介入を受けて困難に晒されていることを捉える。
第9章 中国経済は、国家主導か民間主導か(梶谷懐 神戸大学教授) 中国経済の実態を考察し、国家と民間との「持ちつ持たれつの関係」を描き出す。
第三部 流動する信仰・アイデンティティ 生活世界における「疎外と連帯」のありようを考察する。
第10章 改革開放期中国の民俗宗教――「神、祖先、鬼」とその霊験(志賀市子 茨城キリスト教大学教授) 民間信仰の世界には神、鬼、祖先という三つのカテゴリーが存在するといわれるが、現実には神、鬼、祖先のいずれをも体現するような曖昧な性格をもった神霊が多数存在することを指摘する。
第11章 宗族とは何か?──客家地域のフィールドから考え直す (河合洋尚 東京都立大学准教授) 父系の出自集団としての宗族の概念境界からはみでている宗族にかかわる人々の活動を通じて、現実には信仰活動にみられる「仲間」と「他者」との関係は、固定的なものではなく、流動的なものであることを指摘する。
第12章 エスニック・アイデンティティの多元性──広東省珠江デルタの人びとを例に (長沼さやか 静岡大学准教授) 漢族という概念はそもそも国民というアイデンティティの形成に際して構築された近代の産物であり、その内部には多様性と多元性が存在し言語や出身地の異なるエスニック・グループが排除や競合の関係を築いてきたことを指摘する。
第13章 排他が生み出す連帯──回族の民族宗教性の動態(奈良雅史 国立民族学博物館准教授) 改革開放以降のイスラームの信仰活動の復興を考察し、「仲間」と「他者」との境界は常に揺れ動いていることを指摘する。
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