小説は、わかってくればおもしろい
文学研究の基本15講
はじめに レポートに必要な〈客観性〉って何?/文学研究は、案外難しい/本書の構成と使い方
第一部 テクストを読むとはどういうことか(実践編)
第1講 作者が偉く見える小説の作法――志賀直哉『小僧の神様』(一九二〇年) 「変に淋しい、いやな気持」を考える/階級格差の物語/二項対立を整理する/見ている のは/語っているのは誰か?/語り手・テクスト・焦点化/名前(呼ばれ方)に注目する/ 作者が〈神〉になるのは、テクストの指示による
第2講 自由に読むには、修業がいる――夢野久作『瓶詰地獄』(一九二八年) テクストの空白を意識する/本文中から根拠を示す/目立つものには罠がある/整合的な 解釈は、何かをなかったことにしている/〈妄想〉と〈研究〉の違い/一般的な教養も必要/ タイトルを改めて考えよう
第3講 語り手は葛藤する――太宰治『葉桜と魔笛』(一九三九年) 回想を意識する/姉の妹への思い/だれが嘘をついているのか/姉妹のひそやかな対 決/作中に存在する聞き手/語り手は葛藤する
第4講 時代背景を知ると、おいしさ二倍――中島敦『文学禍』(一九四二年) ゲシュタルト崩壊/文字とは何か/ややこしいところを無視してないか!?/霊が、それで なかったところのものとは/宮廷でのふるまい方/物語内容の時代と書かれた時代
第5講 文庫本で読んでる? まあ、悪くないけど……の理由――井伏鱒二『朽助のゐる谷間』(一九三〇年、一九六四年) 本文校異とは/検閲を茶化す/〈語る私〉と〈語られる私〉/言葉の優劣/〈日本人〉の境界
第6講 共感できない、のも研究として〈あり〉――川端康成『水月』(一九五三年) 「今の夫」は「前の夫」の引き立て役/メタファーを読み解く/鏡が見せる、他人から見た自 分/共感できない、の先に進む/三人称は中立ではない
第7講 小説でしか語れない歴史――有吉佐和子『亀遊の死』(一九六一年) お園が考える「本当の」理由/文字による情報が正しいとは限らない/われわれが〈読める〉 歴史はどのようなものか/元号に隠された歴史的事件/歴史には因果がある!?/ 〈○○は実は××を意味している〉の落とし穴/集団的イメージという暴力
第8講 ふたたび生き方と結びつける――川上弘美『蛇を踏む』(一九九六年) 蛇の世界は性別役割分業/私はどのように生きられるのだろう?/私の「お母さん」は、「お 母さん」だろうか?――固有名詞とは/小説が世界を変える
第二部 研究にするための資料と態度(方法編)
第9講 文学研究は、自由だから不安である 文学研究と現実との関係/文学は〈役に立つ〉か?/文学研究は技術である/〈テクスト 概念〉以降の資料調査の態度/文化研究という方法/高度経済成長時代の文学研究/ 〈鑑賞=研究〉からの脱却
第10講 挿絵は、本文以上に語る――久米正雄『不死鳥』を例に 資料を調査するとは?/劇的! 久米正雄『不死鳥』/初出を確認する/現実の演劇状 況とのリンク/〈宿命の女〉というパターン化/竹久夢二の挿絵が語ること/近代小説に おける挿絵の位置づけ
第11講 作品は、読まれなくても〈名作〉になる――堀辰雄『風立ちぬ』を例に 堀辰雄『風立ち』の受容を調査する/戦後になって高まる評判/〈日本〉を再発見させてく れる作家/『女性自身』にみる、働く女性の憂鬱/雑誌をぱらぱらめくってみよう
第12講 資料は、あなたに掘り起こされるのを待っている――大谷藤子を例に けっこういい作家なのに、研究がない……場合/新聞データベースや雑誌の総目次を使 ってみる/マイナーなテーマは難しい?
第13講 論争が読めれば、あなたはかなりのもの――倉橋由美子『暗い旅』論争を例に 論争をよんでみよう/『暗い旅』論争の経緯/論旨を要約する/何がそんなに気に入らな い!?/模倣は盗作か芸術か/愛しているから、あいさない/「あなた」は演じられるにす ぎない
第14講 文学史をどのように考えるか 文学史の困難/文学史入門編/思想・表現・制度/テクストの成立経緯と検閲/文学の 中身を支える制度/あなたは文学史を書きかえている
第15講 参考文献の探し方 先行研究の調査法/研究の前提/参考文献の入手/参考文献の示し方/便利な資料集
あとがき
対象テクスト 志賀直哉『小僧の神様』 夢野久作『瓶詰地獄』 太宰治『葉桜と魔笛』 中島敦『文学禍』 川端康成『水月』 有吉佐和子『亀遊の死』
附録 大谷藤子著作目録(第12講より)
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