誘う言葉、しむける言葉……
特別寄稿『評伝 奥山春枝――近代起業家の誕生とその生涯』(坂井達朗 著)慶應義塾の精神が育てた、ある実業家の肖像  福沢諭吉門下生、実業界に生きる  明治初年の山形県上山に生まれ、  慶應義塾で学んだのちに、ビル・ブローカーとして生きた 実業家の非凡な生涯。  若き日からの友人、実業界の同士と語らいながら、 したたかに、柔軟に時代を駆け抜けたその姿を、  第2次世界大戦前における日本資本主義の盛衰を背景に、 生き生きと描き出す。
関連書籍『「教育」を問う教育学』はこちら
   
わざ言語――感覚の共有を通しての学びへ
 

わざ言語――感覚の共有を通しての「学び」へ

    
 
    
生田 久美子 編著
北村 勝朗 編著
    
A5判/上製/370頁
初版年月日:2011/03/22
ISBN:978-4-7664-1804-0
定価:3,675円
  
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誘う言葉、しむける言葉……
「わざ」の伝承を支える「ことば」に迫る。

 

▼学習者が指導者から学ぶべきものとは何か? それはどのような言葉で促されるのか? という問題に焦点をあて、学習者の認知プロセスを明らかにする。


▼古典芸能、スポーツなどの第一線で活躍する指導者や実践者のインタビューを通じて、それぞれの現場で「わざ言語」が作用する構造を解明していく。

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本書はしがき
   
 


あとがき

北村勝朗
(東北大学大学院教育情報学研究部教授)


 本書は,わざ研究の先駆者である生田を中心とし,わざの伝承に関心をよせる7名の研究者が,それぞれの専門領域から「わざ言語」という切り口によって執筆した,新たな学びを問うものである。

 

 

 「はじめに」の中で生田が示しているように,本書は前半を理論編としてそれぞれの研究者の視点から「わざ言語」の意義を論じ,後半は実践編として伝統芸能,スポーツ,看護の領域のわざ実践者との対談により,「わざ言語」の現場での在り様がリアリティをもって語られている。さらに,前半の理論編では,後半で語られるわざ言語の実際を分析対象として引用しつつ論ずるというユニークな構成となっている。

 

 

 生田および北村を中心とした研究グループは,平成20年4月から23年3月までの3年間に渡り,文部科学省科学研究費補助金(基盤研究(B)研究代表者 生田久美子、研究分担者 北村勝朗)の助成を受けた。本書は,この研究助成によるプロジェクトを土台にしている。このプロジェクトでは,7回に渡って研究会を開催し,「わざ」の伝承場面を目にし,聞き,語り,そして問い続けてきた。そのひとつの成果としてまとめたものが本書である。3年間の研究会を以下に記す。

 

花柳小春(日本舞踊)
「わざ」と「ことば」〜伝統芸能の「知」を探究する〜
   
中村時蔵(歌舞伎)
歌舞伎の「わざ」の継承とは何か〜「ことば」体験に注目して〜
   
佐藤三昭(創作和太鼓)
創作和太鼓における「わざ言語」の役割〜「しむけ」に注目して〜
   
朝原宣治(陸上競技)
己の感覚との対話
   
紙屋克子(看護)
看護の技と言語
   
村上明美(看護)
熟練助産師の「分娩介助」のわざ〜その人らしく「産む」・その人らしく「誕生」する〜
   
結城匡啓(スピードスケート)
選手と共有する「わざ」世界

 

 

 本書で登場した「わざ言語」の姿は実に様々であった。今この瞬間に投げかけられた「わざ言語」を通して動きを学び感覚を共有することもあれば,わざ言語として書かれた文字を通して,師の芸や,かつての自身と対話し,時を隔てて感覚を共有することもあった。さらに,大切なレースの直前や助産の場に,共に同じ目標を目指してそこにいることで,互いの思考,情緒,意識,雰囲気,価値観,そして感覚を共有することもあった。このように「わざ言語」は,多様な文脈の中で,多様な学びの様態となって現れ,多様な作用を生み出し,その中で,教え学ぶ両者に大きな変化をもたらす,実に学びの契機を大量に含んだ「学びの触媒」のようなものなのである。

 

 

 一方で,「わざ言語」は,単に言語形式によって区別されるものでもなく,文脈によって役割が変化することから,どこか捉えにくく,感覚的であいまいな印象をもたれるかもしれない。しかし,実はこのあいまいさこそが,「わざ言語」を捉える重要な視点なのであり,学びを捉える新たな視点でもある。なぜなら,あいまいさは,科学的な言語で説明することが困難でありながら,それを受けとめる文脈やひとによって,どこか気にかかる,あるもの全体を捉えさせてしまうものであり,Achievement状態に誘い,「わざ」を身にまとうに至る重要な視点と捉えられるからである。KJ法の考案者である川喜多二郎は,この「あいまいさ」を,どこか気にかかるという感覚で捉えられることの重要性に触れる中で取り上げ,次のように述べている。「ハプニング的に、しかも“気にかかる”というあいまいさで捉えられたデータを、今日の科学では全く不当にも無視し軽蔑してきた」(川喜多二郎,1970,『続・発想法』,講談社,30頁)。わざ言語を通した学びの本質も,まさにこうした「どこか気にかかる」感覚の積み重ねにあるのではないだろうか。

 

 

 本書によって「わざ言語」の全てが解明され尽くしたとは思っていない。むしろ,新たな課題が見えてきたといった方が適切であろう。今後,更なる「わざ言語」そして「わざ」の研究を発展させていきたいと考えている。

 

 

 
     
目次
  
  
「はじめに」 (生田久美子)
第 I 部 「わざ言語」の理論
第1章 「わざ」の伝承は何を目指すのか――TaskかAchievementか(生田久美子)
第2章 熟達化の視点から捉える「わざ言語」の作用
 ――フロー体験に至る感覚の共有を通した学び(北村勝朗)
第3章 スポーツ領域における暗黙知習得過程に対する「わざ言語」の有効性
 ――動作のコツ習得過程において「わざ言語」はどのように作用しているのか(永山貴洋)
第4章 「文字知」と「わざ言語」――「言葉にできない知」を伝える世界の言葉(川口陽徳)
第5章 「わざ言語」が促す看護実践の感覚的世界(前川幸子)
第6章 看護領域における「わざ言語」が機能する「感覚の共有」の実際(原田千鶴)
第7章 人が「わざキン」に感染するとき(佐伯胖)
第 II 部 「わざ言語」の実践(対談)
第1章 歌舞伎の「わざ」継承と「学び」――「役になりきる」ことに向かって
   語り手:中村時蔵(歌舞伎俳優) 
第2章 しむける言葉・入り込む言葉・誘い出す言葉――創作和太鼓の実践から 
   語り手:佐藤三昭(創作和太鼓作曲家・指導者)
第3章 感覚との対話を通した「わざ」の習得――感覚人間としての陸上体験 
   語り手:朝原宣治(北京オリンピック陸上競技メダリスト) 
第4章 スピードスケート指導者が選手とつくりあげる「わざ」世界――積み上げ、潜入し、共有する 
   語り手:結城匡啓(バンクーバーオリンピック・スピードスケート・コーチ) 
第5章 「生命誕生の場」における感覚の共有 
   語り手:村上明美(母性看護学・助産学) 
「おわりに」 (北村勝朗) 
     
   
 
  
著者紹介
  
  
 

生田久美子
(いくた くみこ)

1947年東京生まれ。慶應義塾大学大学院社会学研究科教育学専攻後期博士課程単位取得退学。修士(教育学)。現在、東北大学大学院教育学研究科教授。専門は、教育哲学、認知教育学。主要業績に『「わざ」から知る』(東京大学出版会、1987年/新装版2007年)、「〈再考〉教育における「技能」概念―傾向性(disposition)としての「わざ」概念に注目して―」(『「教育」を問う教育学』慶應義塾大学出版会、2006年)、(監訳・解説) 『スクールホーム―〈ケア〉する学校』(J・R・マーティン著、東京大学出版会、2007年)、“What are the Implications of the Teaching and Learning Method of Traditional Japanese Artistic Performances?” ‘Kampf oder Dialog der Kulturen?’, Bildung und Erziehung (53). Jg.Heft4/Dezember, 2000. 「民俗芸能を学ぶ子どもたちーー二つの神楽の伝承事例を通して」佐藤学・今井康雄(編)『子どもたちの想像力を育む―アート教育の思想と実践』(東京大学出版会、2003年)などがある。

 

 

北村勝朗
(きたむら かつろう)

1961年長野県生まれ。東北大学大学院教育学研究科教育学専攻博士課程前期修了。博士(教育学)。現在、東北大学大学院教育情報学研究部教授。専門は、教授学習心理学,スポーツ心理学。主要業績に、(分担執筆)『理科大好き!の子どもを育てる――心理学・脳科学者からの提言』(無藤隆編、北大路書房、2008年)、「優れた指導者はいかにして選手とチームのパフォーマンスを高めるのか? 質的分析によるエキスパート高等学校サッカー指導者のコーチング・メンタルモデルの構築」(『スポーツ心理学研究』32(1)、2005年)(2006 年スポーツ心理学会 学会賞:最優秀論文賞、Top Quality Research from non-native English speaking countries: Association for Applied Sport Psychology,2009)などがある。

 

 

執筆者

永山貴洋(ながやま あかひろ)
川口陽徳(かわぐち ようとく)
前川幸子(まえかわ ゆきこ)
原田千鶴(はらだ ちづる)
佐伯胖(さえき ゆたか)

  
 

語り手

中村時蔵(なかむら ときぞう) 歌舞伎俳優
佐藤三昭(さとう みつあき) 創作和太鼓作曲家・指導者
朝原宣治(あさはら のぶはる) 北京オリンピック陸上競技メダリスト
結城匡啓(ゆうき まさひろ) バンクーバーオリンピック・スピードスケート・コーチ
村上明美(むらかみ あけみ) 母性看護学・助産学

 

   
  
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「教育」を問う教育学――教育への視角とアプローチ

    
 
    
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A5判/上製/424頁
初版年月日:2006/04/06
ISBN:978-4-7664-1253-6
定価:4,725円
  
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今、改めて<教育とは何か>を問う。


▼教育を自明視する風潮に警鐘を鳴らし、19名の教育学研究者が、それぞれの研究関心から教育学の自己理解へのアプローチを試みた論考を収録。


▼「教育とは何か」の問いは、いわば北極星である。この問いの要素である「人間(子ども)」をどう理解するか、その形成の方法をどう構想するか、教育の内容は、手段は、制度は、といった……個別の問いを各自の研究活動の導き糸に、あるいは理論的に、あるいは歴史的に、あるいは実証的に、あるい実験的に、といった各自が拠って立つ方法を駆使して研究し、教育に従事すること、これが私たちの自覚なのである。(本書「あとがき」より) 。

 

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