教育施設・家庭での安全は、すべての国民、保護者が強く望んでいます。学校の評価は、進学率や競技会での成績などに目が行きがちですが、一旦事故が起きれば子どもの被害は言うまでもなく社会やマスコミより大きく非難され、今まで築いてきた学校の信用へのダメージは計り知れません。平成27年の日本スポーツ振興センターによれば災害給付加入者(小学校、中学校、高等学校、幼稚園、保育所等)は16,914,422人で、このうち負傷・疾病により給付を受けた者は1,078,605件、これは100人当たり6.4と多数です。また就学前の子どもの医療機関受診事故は年間3人に1人との数字も見られます。このため、普段より子どもの安全について細心の配慮が必要です。しかし、事故防止は事故に注意するだけでは効果的な防止は難しく、事故のリスクの有無に気づき、前もって安全な環境整備をすることによって初めて事故を減らすことが可能です。子どもの事故は、年少児では子どもの発達と子どもの行動特性の理解、年長児は過去の事故事例についてSHEL分析(ソフトウェア:Software、ハードウェア:Hardware、環境:Environment、人間:Livewareという4つの要因から人間の行動は決定されると規定し、その境界面で起こりえる問題を分析する手法)など詳細な分析を行い、対応策を立てそれらを確実に実施するPDCAサイクルを回すことにより、減らすことが可能です。また、幼児期からの子どもへの安全教育・指導も大切です。
事故を恐れるあまり、教科や行事において事故のリスクのあることは行わないとするのではなく、発育・発達に必要なものについては、どうしたら安全に行えるかを考え実施すべきです。しかし、事故や病気についてはどんなに防止に力を入れても、これらを完全になくすことは不可能です。また、事故の発生には不可抗力的なものがみられますが、発生時に的確な対応をすることにより子どもの被害を軽くすることが可能で、それにより社会から責任を強く追及されることは少なくなると思われます。このため教員、子どもの保護者は、けがや急病の際にとるべき対応について知識、スキルを身につけておくべきです。
心停止があったと思われる溺水症例を例にとると、小生の臨床経験や多くの文献でも救命例はすべて発生現場で一般人によって蘇生が行われたケースです。心肺蘇生法は決して難しいものではなく、心臓の位置や働き、呼吸の仕組みを理解するように指導すれば小学3年生以上では学習にて実施ができることが確かめられています。心肺蘇生法、窒息、大出血など一刻を争う手当てについては、実技をマスターし、他の手当てについては使いやすい参考書を手元に置くことが勧められます。学校における事故や急病の際の応急手当ては養護教諭が行えば十分との考えをする人もいるかもしれませんが、子どもの専門職であるすべての教職員は一定水準以上の応急手当てが求められることは当然です。
小児科医の立場からすると、体の仕組みや病気についてのわが国の学習・教育が十分かどうかは疑問です。学校や家庭で、病気やけがの救急対応能力を高めて、安心できる社会を築きたいものです。
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