Browse
立ち読み  
編集後記  第65巻12号 2017年12月
 

▼今年も、はや師走がやってきました。クリスマス、冬休み、そしてお正月と子どもたちが楽しみにしている行事が続く季節です。他方、多くの子どもたちにとっては、入学試験直前の緊張感も入り交じる季節でもあります。いつものありふれた風景かもしれません。しかし、このありふれた日々の生活が続くことはとても素晴らしいことです。

▼虐待やいじめ、貧困や飢餓、戦争や避難生活など、子どもたちを取り巻く世界には、目を覆いたくなるような悲惨な現実が存在しています。そんな悲惨な現実を変えることができれば一番良いのですが、それは容易なことではなかったり、時間がかかったりします。
 世界の現実、日本の現実を見据えると、対立や紛争、そして戦争への懸念は日増しに募っているというのが実情です。もちろん、戦争をしたい人はごく一部に限られるでしょう。とはいえ、攻撃されたら仕返しすべきだという感情は、ほとんどの人々が共有するものです。そんな感情を政治的に利用されると、我々の、とりわけ子どもたちにとっての未来は暗澹たるものになってしまいます。

▼平家物語の時代から、我々の祖先は知っていたはずです。たとえ戦いに勝って、相手を屈服させ、栄耀栄華を誇っても、それは長くは続かないのです。わかっているのに、やってしまう。それをなんとか止める工夫が必要です。
 心の中では一人ひとりが、「戦争するのは嫌だな」と感じていても、同時に、「周囲のみんなは戦争すべきだと思っているみたいだな」と思うと、「周囲の人々の考えに反するようなことは言わずにおこう」という忖度をしてしまいがちです。そんな忖度を揃って皆がしてしまうと、ほとんどの人が本音では嫌だと思っていることが社会の多数意見としてまかり通る矛盾した理不尽な事態が起こってしまいます。

▼確かに軍事攻撃を受けたらどうするのか、という問いは我々の心を揺さぶり、不安を駆り立てます。戦うべきだという意見が公然と主張されたりするようになります。そうした感情や勢いを忖度して、自分の本当の気持ちから目を背けてしまうことが、戦争を支持する社会態勢を作り出してしまうことがあるというのは怖いことです。
 世界平和を願い続けたジョン・レノンは、楽曲「イマジン」の歌詞の中で、「天国も地獄もなく、国境も宗教もなく、ただみんなが平和に生きていることを想像してみようよ。そんなことを言う僕のことを夢想家と呼ぶ人もいるかもしれないね。でもそれは僕一人だけではないはずで、いつの日かみんなひとつの思いで結ばれるはずだ」(筆者意訳)と書いています。

▼自分の思いを率直に口にしてみると、「なんだ、あなたもか」という人が周囲にいるかもしれません。「唇寒し」と口ごもるのではなく、率直に自分の思いを周囲に伝えることが、いつものありふれた情景に心安らぐ日々を送るためには大切なのだと肝に銘じたいと思います。

 

(山口裕幸)
 
ページトップへ
Copyright (C)2004-2024 Keio University Press Inc. All rights reserved.