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論理学の基礎と演習  立ち読み

『論理学の基礎と演習』CD-ROM付  

日本語版訳者による序言

 

 

日本語版訳者による序言
         白旗 優

 

 本書はJon Barwise and John Etchemendy, Language, Proof and Logic の日本語訳である。原著初版は,Seven Bridges Press から1999 年に出版された。翻訳の底本としたのは,CSLI publications から出版されている改訂版の2003年版である。ジョン・バーワイズは1980 年代の状況意味論によって良く知られた論理学者であり,1990 年代にはその発展ともいえるチャンネル理論を提唱した。ジョン・エチメンディは論理学の哲学の研究者として著名であり,2000 年からはスタンフォード大学の副学長も務めている。彼らは,1980 年代の半ばからパーソナル・コンピュータを使った論理学教育に取り組み,ソフトウェア教材を開発し,それを講義に統合するという経験を積み重ねてきた。本書は,その集大成ともいえるもので,Tarski’s World, Fitch, Boole, Submitという4つのソフトウェアと,それらを存分に活用した教科書からなっている。

 これらのソフトウェアの大きな特色は,視覚的・図形的なインターフェイスの利用である。論理学の授業は,うっかりすれば記号の羅列となり,学生をうんざりさせることになりかねないが,特にTarski’s World では,ゲームのような感覚で,立体図形を感覚的に操作しながら,論理学の基本概念を学ぶことができる。こうした図形の利用は,論理学それ自身にとっても重要なことであり,本書での発想は図形的推論の新たな研究にも発展している。著者二人は,これらのソフトウェアによって,1997 年のEducom Medal を受賞した。

教科書本体も,日本語版で650 ページを超える,長大で本格的なものである。内容的には,初歩の命題論理からゲーデルの不完全性定理に至るまで,著者たちの論理学に対するスタンスを十分に反映しながら,直観的で懇切ていねいな説明が繰り広げられている。第I 部と第II 部では,整理された理論を単に述べるのではなく,それ以前の日常的な思考と直観に基づいて,論理的真理や推論の妥当性といった概念が,正面から論じられている。一方で,第III 部では,しっかりとした数学的な議論が細部にわたって展開されている。

 特に重要なのは,Tarski’s World やFitch, Booleを使った膨大な数の練習問題である。論理学の学習では,多くの練習問題を行うことが決定的に大切であるが,それを用意することは決して容易ではない。本書の練習問題には,それ自身として興味深く,学生が進んで取り組んでいけるようなものが,大量に含まれている。さらに,練習問題の解答を,Submit を使ってインターネット経由で自動的に採点してもらうこともできる。

 日本語への翻訳に際しては,何よりもまず日本語としての読みやすさを重視した。そのため,原文の言い回しを,自然な日本語に言い換えている個所もかなりある。一方で,原著では英語の例文が多用されており,英語の文法に即した説明も多い。そうした場合には,英語表現を基本的にはそのまま残し,補助的な日本語訳をカッコに入れて付け加えるだけにした。その方が,意味が通りやすいと判断したためである。練習問題での英文も同じように扱っている。ソフトウェアについても,メニューの日本語化を行っていないが,特に不便を感じることはないだろう。

 また,教科書とソフトウェアの総称として,原著ではタイトルの頭文字をとったLPL という名前を使っている。日本語版でも,そのままにした。翻訳は,章ごとに担当者を割り当てて行った。全体で可能な限り語句と表現の統一をしている。担当は以下のとおりである。

謝辞 中戸川孝治
序論 中戸川孝治,橋本康二
第1-5章 橋本康二
第6-8章 大沢秀介
第9-11章 白旗優
第12-14章 中川大
第15-17章 橋本康二
第18-19章 白旗優
形式的証明規則の要約 白旗優
用語解説 大沢秀介
LPL ソフトウェア・マニュアル 中川大,中戸川孝治

 いくつかの個所では,翻訳作業の何らかの段階で,北海道大学の大学院生であった北村久,斎藤健,佐古彰史,須永一幸の諸氏に協力して頂いた。

 本書の企画は,10 数年以上まえに,中戸川孝治の発案ではじまった。当初は原著の前身であるLanguage of First-orderLogicの翻訳であったが,結局は現在の本を翻訳することになった。その過程でさまざまな困難があったが,出版に至ることができて,感慨にたえない。本書の出版を引き受けてくれた慶應義塾大学出版会と担当してくれた小磯勝人氏に,心から感謝の意を表したい。

2006年8月日本語版訳者を代表して
白旗 優



 
 
 

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