朝日新聞社ジャーナリスト学校の千葉光宏氏「はじめに」を公開しました。
法学セミナー 2010年12月号(No.672,131頁)で紹介されました。
『報道現場』(朝日新聞社ジャーナリスト学校 編、慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所 編)優れたジャーナリズムは日々の報道の中にこそある。新聞・テレビの記者たちが、渾身をこめて語る報道現場。ジャーナリズムの可能性を示した注目の書
 
▼朝日新聞社ジャーナリスト学校の千葉光宏氏「はじめに」を公開しました。
 
   
報道現場
 

報道現場

    

朝日新聞社ジャーナリスト学校 編
慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所 編

    
 
    
    
四六判/並製/200頁
初版年月日:2010/07/21
ISBN:978-4-7664-1761-6
定価:2,100円
  
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メディアは単なる情報の発信元ではない。
信頼できるジャーナリズムの担い手に求められるものとは・・・?

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  ▼新聞とテレビがここ数年間に行った報道の中から、ジャーナリズムの名に値する報道、特筆すべき成果をあげた取り組みを一つ一つ取り上げていく。現場からの生きた報告によって、報道の意義、新たな可能性を考える。
   
  ▼ 「アスベスト被害」「ワーキングプア」「医療事故」「クラスター爆弾」「防衛省・自衛隊の実像」などのテーマで発表された記事・番組から、朝日新聞・毎日新聞・東京新聞の編集委員・社会部記者、東海テレビ報道部ディレクター、NHK報道局社会部などの執筆者が、企画・取材の過程を通じてジャーナリズムのあるべき姿を伝える。
はじめに
   
 

はじめに



千葉光宏
朝日新聞社ジャーナリスト学校


 この本には慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所で2009年度の前期に、ジャーナリズム総合講座として行った授業を収録しました。この講座は朝日新聞社の寄付講座で、学生にジャーナリズムについて学び、あり方を考えてもらおうと慶大にお願いして開設しています。


 前期日程の担当に私がなり、どんな授業をするか考えました。せっかくの機会です。ジャーナリズムの現場を知ってほしいし、理解を深めてほしい。とはいえ取材領域別・メディア別の仕事の流儀や苦労話、手柄話、内輪話の紹介には終わりたくない。ジャーナリズムの重要性や意義、問題点を改めて取り上げるのも芸がない。では、何をするか。

 

 メディアは大転換期を迎え、部数減と広告収入の落ち込みでもがいています。ネット社会になったことに加え、メディアが自ら招いた原因もあります。報道被害、誤報・虚報、不祥事・・・・・・。そもそもジャーナリズムとしての使命をどこまで果たしてきたのかという批判もあるでしょう。

 

 多くのメディアがいまの形のままでは生き残ることができないだろうと言われています。なくてもいいメディアだと見なされればやがて消え、この国に不可欠な社会基盤だと評価されれば生き残っていく。いずれにしろ多様な言論は失われていきます。

 

 時代に即した新しいメディアが出現し、旧来型のメディアにとってかわるなら、それはけっこうなことです。メディアが古かろうが新しかろうが、健全なジャーナリズムさえ担えるのであればどちらでもいい。

 

 でも、健全なジャーナリズムは情報の集積ではありません。次元が違う。あふれるほど情報があっても、それだけではジャーナリズムの使命は達成されないのです。

 

 時間と人手、費用、取材力、汗と努力、意志の力。これらをつぎ込んだ結晶がジャーナリズムの使命にかなう報道です。どうやったって安上がりにはいかない。権力の不正をただし、社会のゆがんだ実相を突きつける報道が、工業製品のように短時間で効率的に生産されるはずもありません。

 

 こうした当たり前のことを学生たちに知ってほしいと思いました。「なくてもいいメディアだと見なされればやがて消え、この国に不可欠な社会基盤だと評価されれば生き残っていく」と先に書きました。なくなってもいいメディアかどうか、その判断をする際に、一人ひとりがメディアを単なる情報の発信元としてではなく、ジャーナリズムの担い手として信頼できるかどうかという視点で見てほしいと思ったのです。

 

 そのためにはどんな授業にすればいいかと考え、新聞やテレビが行った近年の報道のなかから、ジャーナリズムの名に値する報道、尊敬できる報道を次々に紹介していくことにしました。それらがどのようにして成立したのか、企画・取材・編集の過程はどのようなものだったのかは私自身の関心事でもありました。

 

 ここに収録した内容がその結果です。記者やディレクターのみなさんに趣旨を説明し、慶大で授業してほしいとお願いしたところ、全員に引き受けていただきました。他紙やテレビの方にとっては朝日新聞社の寄付講座という点が障害になったはずです。それにもかかわらず、断ってきた方が1人もいなかったのは、前述のようなメディア状況に対する懸念と問題意識を、濃淡はあれ、みなさんが共有していたからだと私は解釈しています。

 

 なお講師の三分の一が朝日新聞の記者になったのは、この寄付講座の前例を踏襲したためです。ジャーナリズムの名に値する近年の報道の半数が朝日新聞の記者によるなどとは毛頭思っていません。念のために書き添えます。

 

 
     
編者紹介
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朝日新聞社ジャーナリスト学校

2006年10月に発足。新人からベテラン、管理職まで各階層の記者たちに、ジャーナリズムや記者倫理、報道全般について研修している。

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慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所

1946 年に慶應義塾大学新聞研究室として産声を上げ、その後新聞研究所と改称。創立50周年にあたる1996年にメディア・コミュニケーション研究所に改称した。新聞、放送、通信社、出版、広告など、メディアやコミュニケーションに関する研究や、関連業界に就職する学生のための教育を行なう。これまで著名なジャーナリストやメディア業界で活躍する人材を数多く輩出してきた。

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著者紹介
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千葉 光宏
上丸 洋一
東海林 智
西見 誠一
大島 秀利
出河 雅彦
中嶋 太一
半田  滋
斎藤 義彦
斉藤 潤一
五十嵐浩司
大石  裕

朝日新聞社ジャーナリスト学校
朝日新聞編集委員
毎日新聞社会部記者
朝日新聞阪神支局次長
毎日新聞編集委員
朝日新聞編集委員
NHK報道局社会部専任部長
東京新聞編集委員
毎日新聞外信部副部長
東海テレビ放送ドキュメンタリーディレクター
朝日新聞社ジャーナリスト学校前事務局長
慶應義塾大学法学部教授

 

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