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編集後記  第65巻6号 2017年6月
 

▼「健康格差」という言葉があります。これは、人種や民族、社会経済的地位による健康状態の差のことを指しています。わが国でも教育年数が短い人は、長い人よりも死亡率が高いことや、所得が少ない人は、多い人より死亡リスクが高いことが報告されています。教育水準や所得は、疾病のリスクとなる環境、雇用状態、ライフスタイル、ストレス、医療へのアクセスの障害といったことに密接に関係しているからだと考えられます。

▼ところで、わが国の子どものう歯(むし歯)の有病率にも健康格差があることが知られています。東京都教育委員会は、WEBページに、「東京都の学校保健統計書」を公表しています。平成27年度の小学生に関する報告では、区部、市部、郡部、島部において、う歯被患者割合は、それぞれ44.7%、46.2%、60.3%、58.4%、未処置者割合はそれぞれ、18.0%、21.3%、34.5%、24.5%となっています。すなわち、う歯被患者割合においては郡部・島部が他の地域よりは高く、未処置者割合は郡部が最も高い傾向にありました。さらに、区の間でも健康格差が認められます。例えば、平均所得が低いといわれる足立区では、う歯被患者の割合は48.1%、未処置者割合は24.3%で最も高くなっていました。一方、最も低かったのは千代田区で、う歯被患者の割合は29.0%、未処置者割合も10.8%でした。千代田区の平均所得は高いとされています。

▼これらの健康格差は何から生じているのでしょうか。う歯被患者割合が高いのは、「甘味飲食の習慣がある」「丁寧に歯を磨く習慣がない」といった要因が関係していると考えられ、家族のライフスタイルも影響していると考えられます。一方、未処置者の割合が高いのは、「う歯のある子どもを保護者が歯医者に連れていかない」のが原因であり、保護者のう歯治療に関する意識の問題が関係していると思われます。なお、学齢の子どもの医療費については多くの自治体は無償化しており、自己負担の問題はほとんどないと思われます。

▼う歯があっても治療しないと重症化し、痛みが強くなっていきます。そして、どんどん悪化していき、歯は抜け落ちてしまうこともあります。そのために、噛むことが困難になり、栄養摂取に影響を与える可能性もあります。歯の健康を維持することは子どもが健全に成長するためには重要であり、未処置のう歯をもつ子どもへの対策は必要です。

▼対策は、う歯の予防教育と歯科検診の結果のフォローアップが基本になります。そして、歯科検診の結果、受診勧奨された子どもが受診できるようにしなければなりません。これらの対策については学校だけに任せるのではなく、行政、歯科医師会、非営利団体などが、資金、人材確保、機会提供について協力していくことが必要です。さまざまな健康格差を縮小させていくためには、社会が問題を共有し、社会的な支援システムを構築し、改善していくことが求められます。

 

(馬場園 明)
 
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