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立ち読み  
編集後記  第65巻7号 2017年7月
 

▼ 夏河を越すうれしさよ手に草履  与謝蕪村
 夏になると日頃難しい表情で働いている大人も童心にかえってはしゃぎたくなります。子どもにとって夏は冒険やチャレンジの機会に恵まれた季節です。2016年の『教育と医学』7月号では「冒険心を育む」という特集を組みました。現在は職場や家庭の平穏無事をただひたすらに祈るようになった私も、子どもの頃はそれなりに冒険に憧れたものです。

 

▼夏休みになるとカブトムシやクワガタ捕りに夢中になりました。夜明け前にこっそり家を出て、まだ暗い山道を一人で歩きまわり、スズメバチやヘビに気をつけながら「宝探し」をしていました。冒険は自分の限界に挑戦することであり、その経験を通して子どもは強い好奇心と試してみる心を育み、瞬時の判断やとっさの身のこなしを磨いていくのでしょう。
  藻の花や人取り池に泳ぐ子等  正岡子規
  短夜の端から端へ救急車    出口善子

 

▼一方で、子どもが事故に遭い、犯罪に巻き込まれたというニュースに胸を痛めることが多いのもこの季節の特徴です。自分の子ども時代の無茶は棚上げして、我が子にはできるだけ危険なことに近づいてほしくないというのも親の心ではないでしょうか。
 チャレンジする心は育ってほしい、でも危険から子どもを守りたい。そのような葛藤を生む子どもの周辺にある危険についてはリスクとハザードに分けて考えることができます。子どもが全く予測できず対応できないハザードは、親や大人の責任で排除する必要があります。やはり「人取り池」で子どもを泳がせてはいけません。しかし、子どもがその危険を予測できて、どのように対処すればよいのかの判断が可能なリスクまでも取り除こうとすれば、安全性は高まるのでしょうが、遊びや冒険の魅力は失われてしまいます。何より経験的に危険を予測し、取り返しのつかない事故やけがを回避する力を育む機会まで奪ってしまうことになります。ほどほどの高所から飛び降りないと上手な着地の仕方は身につきません。水に入らない限り上手な泳ぎ方を覚えることはできません。

 

▼本号は、第1特集では子どもの病気やけがへの救急対応、第2特集はけがや事故から子どもを守る対策や教育について専門の先生方に解説していただきました。本当ならば救急対応が求められる事態にならないように、常日頃の危機管理や安全教育に取り組むことが必要なのかもしれません。しかし、想定外のことが起きるのが事件・事故ですから、起こってほしくないことが起きてしまったときの適切な対応について知ることが大切だと考え、救急対応を第1特集としました。もしもの場合の備えができたところで、少々のリスクを伴うけれど子どもたちの健やかな心身の成長を促すチャレンジや冒険に必要な安全対策、安全教育を考えていきたいと思います。
 編集会議でも、どちらを第1特集にするのか議論があったのですが、以上の方針にまとまり、本号の構成となったことを紹介させてください。

 

(古賀 聡)
 
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