● FAQ (Frequently Askd Questions ; よくある質問)

     
 

Q2.知的障害教育における「教科」への抵抗感について

 
  (2015年2月)  
     
 

Q.

 
  知的障害と肢体不自由の特別支援学校で、重複障害の子どもの指導を担当しています。 「学習到達度チェックリスト」を活用して、教科の視点で子どものつけたい力を考えていこうと思っています。 学校の教員と話をしていると、知的障害教育で長年にわたって仕事をしてきた人の中には、「教科の視点」ということに対して 抵抗がありますが、どのように説明したり、話をしたりすればいいのでしょうか。  
  (特別支援学校教諭)  
   
 

A.

 
 

この質問は、「学習到達度チェックリスト」(以下、本チェックリスト)の重要なポイントである「教科の視点」についての疑問と考えます。まず、「教科の視点」の意味について、さらに知的障害教育における「教科」に対する考え方を踏まえて、どのように話をするのかを整理しましょう。


1.書籍『障害の重い子どもの目標設定ガイド』で基本的な考えを確認しましょう。

読み、書き、そろばん(核となる教科)につながる基礎的な力は、生きる上で必要な力の基盤です。働くための力を考えた場合にも、「指示を聞く」「結果を報告する」等の国語の力、「簡単な物の区別」「簡単な数を確認する」等の算数の力は、その基礎になります。
本チェックリストの行動項目は、日々の生活をよりよく送る上でも、その基礎となる力です。また、その力は障害の有無にかかわらず、社会で生きていく上で必要な力と考えています。


2.どのように「授業」を考えているかを確認しましょう。

本チェックリストを活用し、目標設定をして取り組む授業は、「国語等の教科の内容を、国語の授業の時間に、教科書を使って指導する授業」
ではありません。以下の点の理解が重要となります。
○本チェックリストは、国語等の教科の視点で小学校の教科の指導内容につながる基礎的な力を身につけるための指導目標を整理したものである。
○授業の時間については、教科別の指導時間があってもかまわないが、生活経験を重視し、体験的に学ぶ良さを生かして、教科や自立活動等の教科等を合わせて指導することを考えるものである。
○前もって教える教科内容を準備してそれを指導するものではなく、個々の児童生徒の実態に応じて目標と指導内容を設定し、活動を通して体験的に学ぶものである。
○これらの授業の目標設定と学習評価に、教科の視点を活用する取り組みである。

 

3.なぜ、知的障害のある子どもの教育では、「教科」に対して否定的な理解があるのか、を考えましょう。

○小学校の授業のやり方や一般の教科書を使った教科の授業をしても、知的障害の子どもの学びにならなかった。
○学びがゆっくりであるために、1年間をかけて学ぶ教科の内容を、年数を多くかけて指導して(水増し教育)も、子どもの力にはならなかった。
○指導内容が教科(知的障害)で整理されたが、それとは関係なく、生活を重視する授業が展開されてきた。
このような経緯があるために、一般の教科に代表される「教科」に対して拒否感があるものと推測されます。その歴史は、知的障害のある子どもとの授業を考える際に、教科中心か生活中心かの議論の歴史とも理解できます。これからは、教科の視点も生活の視点も重視する授業づくりが期待されています。


4.歴史から学ぶ点、重視したいことを整理しましょう。

○教科書を使った机上の学習でなく、生活に結び付いた具体的な活動を、実際的な状況下で学ぶことを大切にする。
○子どもの実態等に則した内容で、自発的自主的活動を大切にし、成功体験を多くする。
これらのことは知的障害のある子どもだけでなく、学びに困難さのあるすべての子どもにとって重視したいことです。


5.教科の視点で整理することの利点を確認しましょう。

どのように知的障害が重度であっても、また障害が重複していても、学びの積み重ねはすべての子どもに重要です。その結果として身につけたい力の基礎は、共通のものがあると考えています。障害特性のためにその力の現れ方は異なる場合もありますが、積み重ねの基本は同じです。
学校教育として子どもに身につけて欲しい力は幅広いものです。それでも、最低限として共通に把握していきたいものがあります。それを、学習到達度チェックリストの「教科の視点」として提案しているところです。そうすることで教員間や保護者、関係者で実態把握と目標設定を共通理解していけると考えています。
知的障害があっても同じ子どもです。生きていく上で身につけたい力は同じであり、その学びの積み重ねを大切にしていきましょう。

 
  徳永 豊  
   
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