Web Only
ウェブでしか読めない
 
オリジナル連載(2007年8月14日更新)

福沢諭吉の出版事業 福沢屋諭吉
〜慶應義塾大学出版会のルーツを探る〜

第18回:慶應義塾出版局の創設
 

目次一覧


前回 第17回
「福沢屋諭吉」の消滅?!

次回 第19回
慶應義塾出版局の活動(その1)

本連載は第40回を持ちまして終了となりました。長らくご愛読いただきありがとうございました。

『ウェブでしか読めない』に関するご意見・ご感想はこちらへ


『時事新報史』はこちらから 

『近代日本の中の交詢社』はこちらから 

 

明治5年の福沢諭吉は、二つの大きな課題に直面していた。その一つは、自らの相次ぐ出版物の激増に伴って、従来の個人商店的な「福沢屋諭吉」からもっと大規模で本格的な組織へと発展させること。もう一つは、三田に移転したばかりの慶應義塾を教育機関としてさらに充実させるために、福沢がこれまで並行して進めてきた教育事業と出版事業を有機的に関連付けること。これら二つの課題を同時に果たすものとして、明治5年8月にその名も慶應義塾出版局が創設されたのである。前回ご覧いただいた諸史料は、この出版局創設に伴って、福沢が改めて東京書林組合に加入した際のものであった。

その出版局の概要は、次の通り。まず主任に朝吹英二(あさぶき えいじ)! そう、あの朝吹英二…。彼については、また回を改めて触れることにしよう。その朝吹主任の下、局員には引き続き八田小雲と松口栄蔵。もちろん彼らだけでは足りないので、他にも局員として、桜井恒次郎・萩友五郎・飯田平作・恩田清次・岡本貞烋・山口半七・穂積寅九郎・湯川頼次郎・中島精一ら。そして新たに雇い入れた職工が何と200人余り! この出版局による出版物としては、まず何と言っても福沢自身の著訳書を中心に、慶應義塾関係者の著書も出版し、さらには塾外の一般出版物にまで手を広げていくことになる。

現在でこそ、いろいろな大学にはユニバーシティプレスとして「○○大学出版会」「△△大学出版部」「××大学出版局」などが設けられている。そこでは、大学の教員が日頃の研究成果を発表するために学術書を刊行したり、大学で使用される教科書・資料集・副読本などを刊行したり、一般社会への教養・啓蒙書の類を刊行したりして、研究・教育機関としての大学を出版事業の面から支え、さらには大学と一般社会との接点・窓口としての機能も果たしているわけである。

ちなみに、慶應義塾大学出版会のホームページには、以下のように記されている。ご参考までに、どうぞ…。

会社の使命
 当社は、大学出版事業を通じて大学の社会的使命である「文明の継承」を実現する一翼を担うとともに、「知的生産」の成果である学術文化情報を時宜を捉えて広く社会に伝えていくことを基本的な使命としています。さらに、一学塾の枠にとらわれず、グローバルな視野に立って、大学における研究成果を社会に普及させることを任務としています。

大学出版事業の内容
 上記のような使命を果たすため、当社は次のような内容の出版事業に取り組んでいます。

  • 大学における優れた学術・教育研究の成果発表の手段としての出版物および優れた教科書を企画・編集し、刊行する。
  • 優秀な能力を持ち、将来性のある若手研究者を探し出し、その研究成果を発表する手段を提供する。
  • 大学が社会に対して果す情報提供機能の一つとして、専門書、教養書、啓蒙書を企画・編集し、刊行する。

このようなユニバーシティプレスは、15世紀後半の英国オックスフォード大学が先駆け とされている。それから遅れること約400年にして、日本で最初のユニバーシティプレス が慶應義塾出版局としてここに誕生したのである。

そこでどうしても気になるのが、「福沢屋諭吉」のその後の行方。慶應義塾出版局が華々しく創設された一方で、「福沢屋諭吉」は一体? 少なくとも福沢諭吉としては、組合や東京府に新たに届を提出している以上、「福沢屋諭吉」から慶應義塾出版局に切りかえたように見える。ところがその切りかえ時期が明治5年8月と断定できるかというと、実は「福沢屋諭吉」の始期は明治2年11月と明確であるにもかかわらず、その終期は今一つ不明確なのである。

その後の「福沢屋諭吉」については、次回以降にじっくりと追いかけていくことにしよう。

著者プロフィール:日朝秀宜(ひあさ・ひでのり)
1967年生まれ。慶應義塾大学大学院文学研究科史学専攻博士課程単位取得退学。専攻は日本近代史。現在、日本女子大学附属高等学校教諭、日本女子大学講師、慶應義塾大学講師、東京家政学院大学講師。
福沢についての論考は、「音羽屋の「風船乗評判高閣」」『福沢手帖』111号(2001年12月)、「「北京夢枕」始末」『福沢手帖』119号(2003年12月)、「適塾の「ヲタマ杓子」再び集う」『福沢手帖』127号(2005年12月)、「「デジタルで読む福澤諭吉」体験記」『福沢手帖』140号(2009年3月)など。
ブログパーツUL5

他ジャンル

ジャンルごとに「ウェブでしか読めない」があります。他のジャンルへはこちらからどうぞ。
ページトップへ
 
Copyright © 2005-2008 Keio University Press Inc. All rights reserved.