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巻頭随筆

四月 新しい出会い 喜びとストレス   増田健太郎

 

 四月は新しい出会いのときです。気持ちを切り替えて新しい環境に適応し、いろいろなことにチャレンジしたいという気持ちが湧いてきます。教師は、どんな子どもたちとどんなことをやろうかという期待が膨らみます。適度な緊張感が教師にも子どもたちにもあります。職場の異動も四月です。メンバーや座席が変わっただけでも、職員室の雰囲気は変わります。その緊張感は、子どもにとっても教師にとっても新しい自分に生まれ変われるチャンスでもあります。ベテランも新任教師も同じスタートラインに立つのが四月です。

 新年度の学級経営は「黄金の一週間」と称されるように、最初の一週間が重要です。最初に、どんなクラスにしたいか、どんな約束を作るのかを子どもたちと一緒に考えることが、子どもたちが安心して通える学級の枠作りにとても重要です。例えば、係り決め、席決め・グループ決めは、対人関係に大きな影響を与えます。また、最初の出来事は強く記憶に残ります。学級経営の最初の一歩をどう踏み出したらよいのか迷っている若い教師が増えたようです。また若い教師に限らずどの教師にも、新学習指導要領への準備など教育改革への対応など、子どもたちのことだけを考えることができない厳しい現実があります。ちょっとした会話の中に、お互いの持っている知恵やアイデアを伝え合うことも大切です。これからは、チーム学校の理念をどう具体化していくかが課題です。スクールカウンセラーや地域との協働が負担にならないようにするための知恵と工夫が求められますが、その際にも、何でも話し合える関係がとても重要です。

 五年前に医師や看護師、教員、臨床心理士など対人援助職のバーンアウトの調査を行ったとき、幼稚園教諭のバーンアウト率が一番高く出ました。保護者との関係や職場の人間関係が大きな要因でした。四月は子どもたちの出会いとともに、もう一つの新しい出会いがあります。それが、保護者との出会いです。PTAはもともと、保護者と教師との協働で自発的に子どものために活動する組織です。活動が活発化、ノルマ化していくたびに、任意加入のはずだったものが、いつの間にか強制加入的な組織になっていった経緯があります。近年、PTAへの強制加入が訴訟対象となり、加入の任意性を強調する必要性が叫ばれています。組織は、役割が発生し、それが拡大するたびに負担感が増していくことは組織形成過程の必然であると言えますが、「何のためにPTAがあるのか」を考えるときだろうと思います。

 私が関わっている私立学校では、昼食は、保護者と高学年の子どもたちが一緒に作るようになっています。それは、入学時に保護者と子どもたちが一緒に作って食べることが約束となっていること、「生活即教育」「その中心の一つが食育」という教育理念が根づいているからです。目的が共有され内在化されると、ノルマではなく、楽しみが生まれます。本来、教育は「好奇心」をベースにした自発性をもとに組み立てられるものだと思います。PTA活動をやっていて楽しいと思えるようにすることも必要でしょう。そして、活動をしてくれている保護者に感謝の気持ちを日常的に伝え合うことができれば、負担感が充実感に変わることもあるでしょう。相手や状況に合わせた即時即事のポジティブ・フィードバックです。
 子どもたちの中でも、教職員同士でも、地域でも、やってもらうことが当たり前ではないことを認識すれば、自然と「ありがとう」の言葉が生まれてくるのではないでしょうか。

 新しい出会いには、喜びとストレスの両面があります。それらをやる気に変えていくのは、制度や組織という大きな枠組みの後ろ盾だけではなく、一人ひとりの内面からの言葉と関係性だと思います。



 
執筆者紹介
増田健太郎(ますだ・けんたろう)

九州大学大学院人間環境学研究院教授。臨床心理士。教育学博士。専門は臨床心理学、教育経営学。九州大学大学院人間環境学研究科博士課程単位取得満期退学。自由学園アドバイザー、NPO法人九州大学こころとそだちの相談室長。著書に『教師・SCのための心理教育素材集』(監修、遠見書房、2015年)、『不登校の子どもに何が必要か』(編著、慶應義塾大学出版会、2016年)、『〈特集〉いじめ・自殺』(編著、『臨床心理学』第16巻第6号、2016年)など。

 
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