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立ち読み  
編集後記  第66巻2号 2018年2月
 

▼世の中には様々な県別ランキングがあり、知事や自治体の担当部局職員にとっては気になるものらしい。それが悪いほうとあっては、なおさらだろう。
 九州大学が立地する福岡県が必ず上位にあがるランキングに、人工妊娠中絶(以下、中絶)実施率がある。平成27(2015)年度はワースト1を何とか免れたが、全国ワースト3位(鹿児県と島根県が同率1位)であり、ほぼ毎年上位に名を連ねている。
 その理由として言われることのひとつが、大学の多さである。福岡県は他県に比較し若い年代の中絶実施率が高いのも事実であるため、「まあそうかも」と言わざるを得ない状況もある。

▼若い世代の中絶というと、想像するのは望まない妊娠である。中絶の理由の中には、母体や胎児の健康への影響を考慮した医学的な判断に基づくものも含まれているのは当然だが、10代の妊娠において、その割合の大きさには疑問が残る。
 ちなみに平成27年の全国の中絶総数は17万6000件程度(女子人口千対で6.8)で、うち10代の中絶は1万6113件、中には13歳未満も16件含まれている。
 この中絶実施率は、平成元(1989)年は女子人口千対で14.9と、平成27年の約2.6倍多かった。このことを考えると、日本人の妊娠等に関する意識が進んできたのか、性教育の成果か、と期待したくなるが、大きく減少しているのは25〜36歳の実施率で、20歳未満の実施率は元年6.1、27年5.5(26年は6.1)とあまり変わっていない。
 SNSの普及等で、性に関しても子どもを取り巻く環境は大きく変わったように感じてしまうが、子どもが自分のからだや性に正面から向き合うことや、性に関する正確な知識を獲得できる状況は変わっていないという、本号で齋藤氏の書かれている状況とも関連するようなデータである。

▼筆者はかつてスウェーデンを訪問した際、コミュニティの便利な場所に建てられた青少年のための余暇施設の一角に、(近い言葉にすると)青少年保健所が設置され、学校看護師と連携をとりながら中学生を中心とした青少年の健康管理が行われているのを見学した。
 そこでは、アルコールやドラッグその他の思春期問題全般を扱うほか、性に関しても子宮等の模型を使いながら具体的な指導や相談が行われ、診察室では妊娠の検査をはじめ性感染症の検査、避妊具や避妊薬の処方も行われていた。場所の利便性もあり、高い頻度で利用されているとのことであった(ただし、スウェーデンの10代の中絶実施率は日本よりも高い)。

▼性も人間の営みのひとつである以上、「寝た子を起こすな」「性に関して知らないでいい」は非現実的である。そして、現行の保健体育の中で教えるということの限界もきているように思う。
 第二特集を読み、その思いを強くした。子どもの現実に即した新たな仕組みを検討する時期にきているのではないだろうか。

 

(鳩野洋子)
 
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