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編集後記  第65巻9号 2017年9月
 

▼算術の少年しのび泣けり夏 西東三鬼
 掲出句から、小学校の夏休みの宿題を相談したとき、母親が小学校では習わない連立方程式で解こうとし、納得いかない私と親子喧嘩になったことを思い出しました。遠方に住んでいた元小学校教師の祖母に電話して「鶴亀算」を教えてもらい解決しました。亡き祖母への尊敬の念はいまも変わりませんが、自分が親となってみると、母の苦労や怒りもよく分かり申し訳なく思います。

▼私の夏休みの思い出は宿題を終わらせるのに苦労したことと、当時通っていた剣道の稽古のことです。夏休み中は朝六時からと夕方四時からの二回の稽古がありました。近所の子があくびをしながらラジオ体操のために集まるのを恨めしく見ながら重い防具を担いで道場に向かいました。剣道の師匠は鬼のようで肝試しのお化けよりも怖く、稽古も厳しいものでした。運動能力の問題に加えて武道に必要な闘争心が発揮されない私は、試合成績で誇れるものは得られませんでした。

▼しかし、数年間の稽古は剣道の技術以外のことも教えてくれました。正座や立ち方、礼や構えなどの所作。特に構えについては、適度な緊張感とリラックス感を維持するなど、身体の使い方を通して心の保ち方を学んだように思います。勝負の前後に一礼を行い、稽古の前後には姿勢を正して黙想しました。闘争心と心の安定のバランスを保つこと、場面に合った心的構えの切り替えを学びました。思い通りに身体を動かすコツ、相手や状況に合わせて心と身体をコントロールする術は一朝一夕で身につくわけではないことも、日々の稽古を通して学びました。

▼今号の第一特集は、「体から子どもの心を整える」です。執筆者である船橋先生や小澤先生と同じく、私も動作法という身体動作を媒介とした心理学的支援法について学んでいるので、非常に興味深い特集となりました。心と身体の関係については、臨床心理学領域においても様々に論じられています。また、今号においては、スポーツ、遊び、動作法、感覚統合療法といった様々な領域における豊かな実践経験をお持ちの先生方から、心と身体の関係について論じていただき、さらに具体的な支援について解説していただきました。
 健康に関する心理教育は中年期になって必要なことではなく、子どもに対しても必要だと思われます。ただし、抽象思考の発達の過程にあり、心理学的概念の理解が難しい子どもに対する介入においては、身体動作を媒介とすることは有効だと思われます。

▼第二特集は「夏休み明けの子どものリスク」です。二学期は様々な学校行事があり、学びを深めていく上でとても大事な学期だと考えられます。しかし、一方では夏休み明けには子どもの自殺や非行、不登校などの看過できない問題が多くなるといわれています。環境の調整がまず大事だと思いますが、言葉の訴えだけでなく身体動作や姿勢からも子どもの心を読み取り、支援することができたらと思います。

 

(古賀 聡)
 
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