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ケースブック II   挑戦する企業


「あとがき」

  
 

 

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 この『ケース・ブックT ケース・メソッド入門』、『ケース・ブックU 挑戦する企業』に納められている20のケースは、執筆者も多様で、各々は専門領域も違えば、勤務する大学も異なる。取り扱う企業も大企業から中小企業まで、業種も業態も多岐にわたっている。本書の特色の1つは、さまざまなタイプの教育者がケース・メソッドという共通の足場から、異なるフィールドで独自の企業事例調査と研究を行い、共通の研究会の場で発表した上、この2冊に凝縮させたという点であろう。

 執筆者の各々はケース・メソッド教育に強い関心を抱き、日々、新しい授業法や題材を求めてチャレンジと研鑽を続けている面々である。その熱意の発露が出版という形で成就したのは自然な成り行きでもあるが、ここに結実するまでには、すでに本書で各々がその経緯や意義について語ったように、長年にわたる教育手法の研究や実践、膨大な時間を割いての事例調査の積み重ねがある。読者の皆様は、注目企業の詳細な情報と経営の醍醐味を本書のケースから堪能されたのではないだろうか。

 さらに、本書の特色は単なるケース集ではなく、実践教育に広く活用される目的で編集された点である。いきなり自作のケースで授業を行うには、多大な労力と手間が必要である。本文と設問も交えた編集は、教育者側の利用価値に配慮しての構成である。一堂に綴られたさまざまなケースは新たにケース開発を試みる人にとって、比較検討が可能なうえ、幾多の発想を促す多彩な糸口も備えていると考える。

 次に、本書やケース教材がより効果的に授業に活用されるために、授業を行う際の要点について、編者なりに総括的に整理してみたい。

1.多面的な視点で
 ケースに書かれている事象や記述だけに目を向けるのではなく、その事象の背後に数多存在する複数の要因を多面的な視点で分析していただきたい。ビジネスは人間活動の織り成す複雑な力学であって、その「解」は決して単純ではない。円柱は上から見ると円く、横から見ると四角い。ビジネスの事象はさらに複雑で円柱型の比ではない。複眼的な視野と考察が本質に迫るにために必要となる。ケース・メソッドは多くの参加者がテーマに対して、各自の個性を武器に角度を変えて突っ込み合う授業法である。教師は交錯する多様な意見の行事役として、多様性を容認しつつ多面的な視点で主題となるテーマを見据えなければならない。参加者のさまざまな意見をマークしていくと、授業の終了時に黒板にテーマの本質が立体的に浮き彫りになるような状況が望まれるのである。

2.余韻の効用
 ケース・メソッドを通じて授業の合間に参加者が悟る部分と言えば、実際の企業や登場人物の情報量の一握りにも満たない。ケース・ライターや教師でさえ気が付かない重要な観点も背後に潜んでいる場合がある。優れたケース教材と授業は、むしろ相当の期間を経てから受講者にその意味合いを問いかける場合が多い。受講者はケース授業を終えて以後も幾多の反芻を重ねることで、ビジネスに役立つ示唆を確認する場合もある。受講生の後々の「気付き」のためにも、授業で話題にならなかった重要な視点について、教師が終わりに紹介しておくのも肝要だ。授業後に「解」を見出せなかったとの欲求不満を残すのではなく、テーマの深遠さを感じさせる余韻の効用に配慮するのも大切である。

3.ティーチング・ノートの準備
 ケース授業を進めるには、時間内にあらかじめ定めた教育目的に到達させるための事前準備をしておくのが望ましい。授業は、必ずしも教師の思いどおりの方向には進まない。想定せぬ発言に話題が逸れて、授業が頓挫する事態に遭遇した経験も筆者には多い。このため、ケースごとに標準的な授業方法を定めたティーチング・ノートが事前に準備されていると、円滑な進行に結びつく。その内容は、導入部での話題提供方法、設問に沿った論点の整理、授業を活発化させる道具立て、板書の書き方などであり、言わば狙いどおりの学習効果をもたらすために設えた手引書のようなものである。

 本ケース・ブックに紹介された各々のケースについて、このティーチング・ノートを用意して、後日、読者の皆様には慶應義塾大学出版会からWebで購入できる仕組みになっている。是非、ご利用いただきたい。

 末筆ながら、本ケース・ブックT、Uの2冊は、わが国のケース・メソッドによるビジネス教育の確立に長年励まれた古川公成先生、編者石田英夫先生の開拓者としてのご尽力の結晶である。ハーバード・ビジネス・スクールの流儀に倣いつつ、試行錯誤を経ながらも日本の経営土壌に適合するまでに高められた教育手法の技術や見識がいたるところに息づいている。ご両名は慶應義塾大学ビジネス・スクールを退任されてからも、ケース・メソッド教育への情熱を失うことなく、東京とは1,000km近く離れた西日本の地で新たな研究会を立ち上げ、粘り強くその普及と啓蒙に勤しまれた。そのフロンティア精神と優れた教育手法に感化された同胞や後輩、教え子が、次はケース開発を自ら手掛けて、両名が主催する研究会でケース発表と講義を始めた。現在、全国で次々新設されているMBAやMOTの専門職大学院で、この教授法が着実に広まりつつあるのも先駆者の功績に負うところが大きい。

 東アジア経済が一層拡大して、ビジネス活動の重心が東から西に移動しつつある昨今。本書2冊の刊行が、新しい時代のプロローグに相応しいビジネス的価値を持つと期待したい。読者の皆様においては、この本を踏台にされ、次なる時代により適合した教材の開発に挑戦していただきたい。もしくは、ケースで学んだ経営の醍醐味を日頃のビジネスの実践に大いに役立てていただければ、本書刊行の目的に適う。

 最後に、執筆者の皆様は、手塩にかけた教材を世に広く活用される目的で本書に託された。その興味深い事例内容とともに教育者としての志と寛容さに深く敬意を表する。また、大勢の執筆者の原稿に隅々まで目を凝らし、ケースの完成度を高める支援をさらに貫徹された慶應義塾大学出版会株式会社編集二課木内鉄也氏に対し、心から感謝の意を申し上げる。
                                               筆 大久保隆弘


 

 

 
著者プロフィール:大久保隆弘
山口大学大学院技術経営研究科教授

※著者略歴は書籍刊行時のものを表示しています。
 

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