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挑戦する企業
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ケースブック II   挑戦する企業


「はしがき」

  
 

 

ケース・ブック1
 ケース・メソッド入門
 はしがき




ケース・ブックII
 挑戦する企業
 はしがき
 あとがき
 




ケース・ブックI
  ケース・メソッド入門
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ケース・ブックII
  挑戦する企業
  書籍詳細
 


 

 

 ケース・メソッド研究会の4年間の活動が、2冊のケース・ブックにまとめられることになった。同時に刊行されるケース・ブックTでは、『ケース・メソッド入門』として、ケース・メソッド教育へのアプローチと10のケースが収められている。この研究会を通じて、初めて本格的にケースに取り組むことになったメンバー自身の経験を通じて、ケース教育の面白さと新鮮さを味わっていただけると思う。そして、このケース・ブックUには、『挑戦する企業』というタイトルの下に、さらに10のケースが収録されている。規模の大小に関わらず、従来の枠組みを超えたビジネスを目指す企業や経営者たちの姿が描かれている。

 第1章の「アジアのビジネス」では、台湾の誇る世界最大級の海運企業のエバーグリーン(長榮海運)の基本重視の考え方、博多と釜山を結ぶ韓国の高速旅客船オペレーターの未来高速のチャレンジ、中国をはじめとするアジアに広く流通業を展開した和田一夫と国際流通グループ・ヤオハンの積極性の3つのケースを扱った。アジアのゲートウェイといわれる福岡は、アジアとの関係の深さが常に感じられるところであり、九州の視点から見たアジア企業の動きと言える。

 第2章の「グローバル経営」は、世界初のどこにもないモノづくりで進化するシャープの技術戦略、グローバルエクセレントカンパニーを目標として常に革新を目指すキヤノンのビジョンと構想、CEOのB. アルノー氏のリードで数々の高級ブランドを傘下に収める持株会社LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトンのマネジメント・スタイルのケースをまとめた。業界トップに甘んじることなく成長を続ける3社の例から、それぞれの変革のポイントを描き出している。

 第3章の「起業家とベンチャー経営」は、アントレプレナーシップの新たな視点でビジネスに取り組んだ人たちのこだわりに注目している。競争の激しいブロードバンド事業と携帯電話事業に参入したソフトバンクの孫正義氏の旺盛な事業欲、米国で鉄板焼レストランのベニハナを展開するロッキー青木氏の夢、高齢者向け総合保健施設ライフコンプリートを設立した塚本安紀子氏の理想の3編と、ショートケース集として8人の起業家の素顔と彼らを支えるプロフェッショナル・マネジャー(専門的経営者)の証言を集めている。それぞれに既存のビジネスに挑戦した起業家たちの成功の軌跡とこだわりが描かれているが、同時に専門的経営者の貢献と苦労も明らかにされている。

 これらのケースは、経営・ビジネス系の学部および大学院において、さまざまな利用の方法が考えられる。それぞれの企業の成功要因や弱みを導き出すことや、事業環境を分析しながら脅威と機会の視点から現在の事業と将来性を考えることも可能であるし、他の企業や事業へのインプリケーションを抽出することで、より効果的な教育が期待できる。分野としても、リーダーシップや人的資源開発、組織論、起業論、MOT(技術経営)、国際経営、戦略論など幅広い領域にわたっており、1つ1つのケースを特定の分野に限定することなく利用ができるのではないかと考える。もちろん、社会人を対象とした企業内研修やセミナーなどにおいても、より深い考察と積極的なディスカッションが期待できるのではないだろうか。

 『挑戦する企業』のケースのほとんどは、当研究会が発足した2003年4月以降に書かれている。石田英夫先生のご指導の下で、メンバーの多くが初めてのケース作成に取り組み、研究会での未完成のケースを使ったディスカッションのリードを通じて、さまざまな意見をフィードバックさせながら完成させたケースである。ケース・ブックTのはしがきにおいて石田先生が述べられている通り、ハーバード大学(HBS)や慶應義塾大学(KBS)などの伝統あるビジネス・スクールのケースには、完成度においてはるかに及ばないかもしれないが、それゆえにケース・メソッド教育への関心と身近さを感じていただけるのではないかと思う。

 ケースによるディスカッションの面白さは、教師の講義を黙って一方的に聞く通常の大学の教室の雰囲気を一変させることである。特に実務経験のある社会人を学生として迎えるビジネス・スクールであれば、発言を求める学生の整理に苦労することも珍しくはない。やはり自分のケースを用いたディスカッションでは、自信を持ってリードできるだけではなく、ケースには書かれていない多くの知識やデータを踏まえて、議論の展開を楽しむことができるという刺激がある。今回のケース・ブックTとUで、ケースに初めて接する読者には、ぜひこれらのケースを一度教室に持ち込んでいただきたい。双方向性のディスカッションの面白さを発見されると思う。さらに、学生に伝えたいさまざまな問題意識や思いを込めて自ら作成するケースには、さらに多くの知的な面白さが期待できる。論文のために集めたデータをケースの形態にまとめてみることをお勧めする。

 ハーバード大学でケースが開発されてから80余年が経つ。私たちの4年前からの取り組みで、大学や大学院での新しい教授法を再発見したように、国内の大学やビジネス・スクールや企業などでも、ケース教育が展開されることを期待したい。

2007年1月
共編集者・ケースライター・解説編の執筆者を代表し   星野裕志


 

 

 
著者プロフィール:星野裕志
九州大学大学院経済学研究院教授

※著者略歴は書籍刊行時のものを表示しています。
 

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